優しさが心に染みるのです。

(鯰尾side)



目を覚ましたら骨喰が部屋から出ていこうとしていた。俺が起き上がる音に気がついて振り返った。しまった、という顔だ。

絶対にここから出るなと言われ、部屋を出ていってしまった。今まで1歩も出たことがなかったのに。周りを見渡してもシン、と気配もない。

骨喰が、いない。

弾けたように俺も部屋を出た。骨喰を探し回った。誰もいない、物音ひとつしない、今にでも崩れそうな屋敷。

奥の部屋から話し声が聞こえてきた。骨喰の声だ。他に誰かいる。助けないと、助けないと…!

「来るなと言ったはずだ…!」

…だ、れ…?

すぐ骨喰の背に隠されてしまったが、あれは明らかに人間だ。骨喰はあの人間を殺そうとしてたのか…?

負けるのは絶対に俺らじゃないか

他の人間とは違う。何が。全てだ。ここの空気も身に纏う霊気も、俺らを見る眼も。お前らになんか興味がない、そう言われているようで。

俺らを無視して通り過ぎた後も背中を見てることしか出来なかった。

広い背中。今までこの人間は何を背負ってきたんだろうか。

「っ…」

突如人間が振り返った。『来い』直接言われたわけじゃないのに、身体が勝手に動く。人間の後を追って辿り着いたのは厨だった。人間が何かを作ってる。

「座れ。」

誰かに背中を押されるように歩き出してしまう。ここにご飯の匂いが漂うのはいつぶりかな。目の前に食べ物が置かれるのは初めてかもしれない。

本当は毒が入ってるんじゃないかって思ってしまう。人間の全ての行動に疑ってしまう。俺はそんな自分が嫌だった。

それを知ってるかのように先に食べ始めた。俺らは確かに同じ鍋からよそっていたのを見ていた。毒味をしてくれたのだ。

人間の食いっぷりに腹の虫が鳴った。これが、空腹というやつか。

見様見真似で茶碗に口をつける。口の中に広がる味は、美味しいとか不味いとか一言では表せなくて。

『優しい』

じわじわと体内を駆け巡る優しい霊力。この人間にしてみれば極わずかな霊力なのかもしれない。俺には充分だった。

体内の汚れた感情が、錆が、涙となって出てきた。ボロボロと今までの分、全部。

「美味いか。」

鼻からも水のようなものが出てきて味がわからない。でも、すごくあったかい。何度も頷いて胃の中に飯を入れていった。

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