皆を助けたいのです。

(物吉side)



審神者が政府の車から降りるところを見ていた。狐はもうこの本丸の中には足を踏み入れなくなった。この空気がに耐えられないらしい。もうそこまで本丸は汚れていた。刀も、空気も。あぁ、この審神者はどうやって殺そうか。

二階の窓から審神者の様子を伺う。ここの敷地に人間など入れたくない。一層の事今殺してしまおうか。

審神者が振り返り、門前まで歩いて足が留まった。空気にやられたか。ふいに顔を上げる審神者。

「…え。」

明らかにボクを見ている。視線を行ったり来たりするのではなく、カチ、とボクに留めた。

息をすることも出来ず体が固まる。ボクが見つけられるなんて。

審神者はボクに声をかけることもなく顔を逸らした。さも自然に、平気でこの本丸に足を踏み入れる。本来の人間ならもう吐き気がするくらいなのに。

あえて気付かないふりをしたというのか。

ドクドクと血が全身を巡るような感覚に陥った。

人間を許してはいけない。神が人間などに負けてたまるものか。この審神者も隙を見つけて殺してやる。

天井裏から審神者を監視し続けた。




わかったこと。それはコイツは人間ではないということ。

攻撃しても前だけを見て歩く。皆は確実に狙っているのに、掠りもしない。普通に歩いているかと思いきや、きちんと避けていた。審神者は歩幅をその都度調節していたのだ。

空間に命令することで空気がヒトのように動く。目を開けてからよくやった、と言うように辺りを見渡す。

この審神者に褒められたら。


そう考えている内に審神者は服を脱ぎ始め水を浴び始めた。

何も身に纏わず、これでは殺してくれと言ったようなものだ。やっと隙ができた。お望み通り殺してやる。

自分の刀に手を伸ばした時、ばっちりと目が合ってしまった。


嘘だ、うそだうそだ!!音も立ててない、呼吸の音も気付かれないようにしていたのに!!

目を細めてボクを射抜く。真剣な表情でボクに手を伸ばした。

「っ、は…」

あぁ、そうか。審神者はこの本丸のことを知っているんだ。ボクもみんなの事も。手を伸ばしているのはボクを助けるため?その手を取ったら?

ボクは迷った。もし罠だったら。人間を信じていいのか、でも。

しばらくして審神者が呆れた顔で手を降ろした。もう二度と助けない、そう聞こえた。

駄目だ、今手を取らないと、皆は壊れてしまう

身体が弾けたように勝手に動いた。審神者の上に落ちてしまった。水が舞い、濡れる。

あたたかい。審神者はボクを受け止めてくれた。

「たすけて」

お願い、助けて。

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