やつに出会った

…と言いつつサボった俺。すごい。今俺はピアノの前に座っている。せっかくだからさっきの曲弾いてみようかなって思った。ここ防音室だし誰もいないから。

「…やっぱり難しいな。」

最近歌っていなかった俺にとっていきなりこの曲は…椚先生が言ってくれたから頑張るしかないけど。

手首を柔らかくさせ鍵盤に指をのせる。息を吸って弾き始めた。

静かなところでピアノの音だけが響いている。

…思い出してきた、かも。この感覚。この緊張感。

前、月永の作曲した曲を弾いた時も思ったけど劣っていないんだ、感覚が。覚えているもんなのか?

でも少しだけ指が固まってるな、いや、いける。


なんで俺はこんなに楽しんでるんだ。考えても無駄か。なんか笑える。笑いが込み上げてくる。

今弾いてるところが一番盛り上がるところだからだ…多分。



最後の音を鳴らして指をゆっくり離す。

扉の方から拍手の音が聞こえた。誰か聞いていたのか。

「素晴らしい演奏だったよ。さすがだね…玲吾。」





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久々に学校に行くことができた。何やら最近、玲吾が学校に来てるって噂になってるからね。周りの者に無理を言って来てしまった。ずっと家に居るのも身体が訛ってしまうし。

まずは職員室かな。

ゆっくりと廊下を歩いていると第一音楽室からピアノの音が聞こえた。

「…ん?」

使われない教室なんだけどな。しかも今は授業中。興味本位で覗いてみる。

目に入った光景に驚いてしまった。


…あぁ、やっと会えた。嬉しくて口角が上がったのがわかる。このピアノも。君の姿も。何もかもが懐かしい。演奏が終わって拍手をした。

一瞬固まり僕の方を振り向く。


「…天祥院。」

どうして複雑そうな顔をするの。

「久しぶり。」

会いたいと思っていたのは僕だけだった。

「あぁ。久しぶり。」

…いつもそうだ。

「相変わらず、いい演奏をするね。」

「それが…夢中になってて覚えてないんだよ。」

玲吾はまた僕に背を向けてピアノの鍵盤に手を置いた。

僕を見て。

「…天祥院?」

後ろから抱きついた。

「もう少し、僕に構ってくれ…」

柄じゃないけれど。

「そっか…すまん、気付いてやれなくて。」

玲吾は僕に顔を近づける。

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