えー

「なぁ、どこ行くんだ?」

神崎くんは部活に顔を出すと言って俺らと別れた。
鬼龍はずっと無言で俺の手を引っ張り歩いてる。

「鬼龍ー。」

「あぁ?…あ、すまん。」

振り返って俺を見る鬼龍の顔が怒ってるように思えた。今すぐ人を殴りそうな顔してたぞ。

「なんで怒ってんだよ。」

「…いや、なんでもない。」

もしかしてお礼言ってないからか?

「あー、鬼龍。助けてくれてありがとな…?」

助けてほしいわけじゃなかったけど。俺のために動いてくれたっていうのは確かだし。

「……。」


ふわっと鬼龍の香りに包まれた。

「ん?」

いつもより抱きしめる力が強い。

「なんとなくこうしたいだけ、だ。」

俺の首筋に額を押し当てている。

「ふーん。」

断る理由もないし俺は鬼龍の腰に手をまわした。うわ、いい匂い。柔軟剤の香り。

「眠くなってきた…」

「はっ?ここで寝るのか?」

「おやすみ。」

「ちょ、お、おいっ…」



_________




「玲吾くん、ドラマのエンディングの曲できました。」

「えっ、早い。」

朝、職員室に行ったら椚先生に楽譜を渡された。

「聞いてみますか?」

「お願いしますー。」

ヘッドホンを椚先生の手から受け取って身につける。


「…なるほど。」

ヘッドホンを外して机の上に置く。

「高低差激しいしテンポも速いですからね。大変だと思いますけど…」

難しい。ただただ難しい。

「俺にできんのかな。」

この曲をチョイスしたのは椚先生だし。

「何弱気なこと言ってるんですか。貴方にできると思ったから選んだんですよ。」

「…椚先生今日どうしたんですか。」

一段と優しいから頭ぶつけたんじゃ。それとも眼鏡の度が合ってないとか…

「う、うるさいです!」

えぇ…

「とにかく何回も聞いてください!!CDも渡しておくので!!」

「え、はい。」

「今日は午後からですし授業きちんと受けてくださいね。」

きちんと、を強調して言う椚先生。授業受けんの?

「えー。」

「何か文句でも?」

「いえ、何も。」

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