演奏中はお静かに

俺と月永は音楽室に行った。

「楽譜、持ってきた?」

「持って来たぞ!ほ、本当にやるのか?」

恐る恐る紙を渡してくる。

「うん。ダメ?」

「うー…わかった。」

頭を撫でると月永は目を細めた。

「えーっと…」

頭の中で音符を繋げていく。

「よし、おっけー。」

一通り紙を見てピアノの前に座る。月永の楽譜はいつ見ても難しい。

「玲吾のピアノ、久しぶりだ…!」

「俺も最近弾いてなかったからなぁ。」

鍵盤に指を置けば音が鳴る。月永はピアノの側に立って俺を見ていた。俺は月永に微笑みかけて鍵盤に指を沈める。

この曲は、なんとなく…


「…甘いな。」

ミスをすることなく弾いた。

「え…?」

何を思ったのか悲しそうな顔をした。

「ん?違う違う。なんつーか、こういうバラードの曲の中でも切なくて甘い感じがするってこと。」

「ま、まぁ…」

「『好きです』って言ってるようなメロディーだな。」

「え、え…?!」

月永の頬が赤くなってきている。

「…ふ、俺の感覚だから。人それぞれだよ。」

「そう、だな!」

月永の作る曲は俺好みだったりする。


その後は一緒に帰ろうかと話していたが、妹ちゃんから電話があって迎えに来てほしいと言われたらしい。

泣きそうな表情をしながらこっちを見てくる。また会おうって言ったら、大きく頷いて走って行った。忙しいやつ。

俺はまたピアノの前にあるイスに座った。

「…この曲…」

俺を思い浮かべて作ったって。何を考えながら作ってたんだよ。こんな切ない感じ。俺自身のイメージじゃなくて月永が俺への想いだったりして。

「…気に入った。」

センス良すぎなんだよ。こういう曲も嫌いじゃない。もう一度最初から弾いた。

今度は俺の思うままに感情を入れて。


演奏中に扉の向こう側でガタッと物音がした。

「…誰。」

ピタッとメロディーが止まる。演奏を妨害されるのはあまり好きではない。扉に近づいて開ける。

「……。」

「…あれ?大神くん。」

最近見てなかった大神くんがいた。なんでしゃがんでるの?俺も同じようにして同等の目線になる。


「…その、すまなかった。演奏中に邪魔して…」

「…!」

なんか…意外だな。

「いいよ、大丈夫。」

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