好き

仁兎なずなside


「俺、そろそろ帰るわ。」

腕時計を見ながらそう言った。

「…もう帰るのか?」

自然と出た言葉は玲吾に迷惑をかけるような言葉だった。面倒くさいやつだって自分でもわかる。ほら、玲吾も困ってるじゃん。


「…なんで泣くの。」

気がついたら目に涙が溜まっていた。

「っはぁ?!泣いてないし…」

強がることしかできない。

「擦ると赤くなるから。」

両腕を掴まれ顔から遠ざかる。見るな。こんな姿見せたくない。また、迷惑がかかる。

「なずな。」

「ッ…」

低音で甘めな声が俺の肩を震わせた。いつも苗字で呼ぶくせに。こういう時だけ名前で呼ぶ。

「なーずーなー。」

「うるっ、せぇ…!」

「こっち向いて。」

「…ん」

顎を上に持ち上げられキスされた。優しく、かわいい口付け。

離れていく唇、目を開けると近い距離にいた。

「嬉しいよ、俺。すげぇ嬉しい。」

頭が真っ白になっていたが状況を理解すると顔が熱くなっていく。

「また、会えたらいいね。」

数回頭を撫でた後、離れていった。

会うたび依存度が増してる気がする。玲吾は平等に皆を愛するから、一人に絞らないから、なおさら。三年生は特にそれを理解している。


「…背ぇ伸びないかな。」

とりあえず、玲吾の身長越してやろうと思った。




仁兎なずなside終
──────────



とある放課後のこと。

「…え、出演依頼?」

学校に連絡があったんだって。

「ええ。連続学園ドラマの友人役としてですが…」

椚先生は台本のようなものをペラペラ捲っていた。

「いや、依頼が来るだけ嬉しいよ。」

主役じゃないのが悔しいけど、そんなこと言ってられない。

「どんな役?」

「ヤンキー役です。」

「…は?」

まさかの。

「結構いい役ですよ。はい、これ台本です。」

「ありがとう。」

ペラペラとめくってみるとまぁまぁおいしい役だということがわかった。

「えーっと…?」

主人公の幼馴染で喧嘩っ早い。まぁ主人公は真面目で、真反対。あることがきっかけで話すこともなくなり絶縁状態だった。

でも前に喧嘩したやつが主人公を攫って行って、それを知った俺が激怒する。なんやかんやで仲直りした二人…

「プレッシャーすごいんだけど。」

こんな重要な役。ましてやヤンキーなんてやったことねぇ。

「貴方ならできます。」

「…お、先生のデレ。」

少し沈黙があった後。

「殴っていいですか?」

「え、ごめん。」

「はぁ…結果、出してください。」

「…もちろん。」

先生がそう言ってくれるなら頑張るしかないよね。

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