「あー…やっちまった。」

保健室を出た俺はぷらぷらと学校の敷地内を歩いていた。俺の悪い癖。誰にでも急に距離を縮めようとしてしまう。

アイドル科のやつらは比較的受け入れてくれたが…高峯くんみたいな人もいること忘れてた。

「どうやって仲良くなろうかな。」

とか言いつつ内心結構悲しかったけど。原因は俺。悪いのは俺。こうなったら…無理矢理でも仲良くなってやろうかな…なんて。

「やめたやめたー。」

考えるのやめよーっと。

「何をやめたんだ?」

誰かがひょこっと後ろから顔を出した。

「おお?」

そのまま後ろから腰あたりに腕を回された。


「…仁兎。」

「うにゅ〜…背ぇ縮めっ!」

後ろを見ると仁兎は俺を睨むように見上げていた。30センチも差があればこうなるか。

…それよりさ。

「睨んでも全然怖くない。」

逆に可愛い。言ったら怒られるだろうけど。

「絶対馬鹿にしてんらろ!!」

ポカポカと俺の背中を叩く。

「馬鹿にしてねぇよ。」

「嘘だっ!俺は信じな…」

仁兎の言葉を遮るように振り返り抱きしめた。

「抱きしめやすい。」

「…っ」

反応がないから顔を覗いてみると耳まで真っ赤になっていた。

「からかうなっ…」

俺の胸板にグリグリと頭を押し付けられる。

「怒った?」

小さく頷いていた。

「あー…ごめんな。」

抱きしめたまま頭を撫でる。大人しくなった。よかった。

「許してくれる?」

…俺が一方的に話してるけど。


「…許す。」

小さな声だったがなんとか聞こえた。

「ありがとう。」

「…!」

急にバッと顔をあげる仁兎。目線がぶつかる。

「どうした?」

仁兎はゆっくりと目を閉じた。


「…仁兎。」

仁兎の頬を軽くつねる。

「んにゃ?!」

「あほ。」

「なんらと?!」


「軽い気持ちでそんな事したら、襲うぞ。」

「なっ…?!」

離れようとした身体を半ば強引に引き戻した。

「いいの?」

さっきより近くなった距離。仁兎は真っ赤に火照ってぎゅっと目を瞑った。

「…っ玲吾に、なら…い、い…」


「だから、そんな簡単に言うなって。」

仁兎を抱きしめる腕を降ろした。

「玲吾…」

一瞬だけ寂しそうな表情をする。

「今、俺の中で戦ってるから。」

…あー、本当無意識って怖い。

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