Love is blind. | ナノ
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▽ 闇夜に紛れた鴉


生きたいように生きてみろと言われても、この世界で私の存在意義ってなんなんだろう。


朝起きて眠るまでの間、暇があればそんなことを考えた。


・・・・・・すっかり綺麗になった白い肌に新たな傷ができることはなかった。






いつの間にか同じベッドで眠るのが当たり前になった私達。隣に感じる温もりは、どこか居心地が悪くて同じくらい安心感を与えてくれるような気がした。




ここの最近、秀一の帰りが遅い。


私が起きるより前に出ていき、帰ってくるのは寝静まった後。


脱ぎ捨ててある服や、昨日よりも増えた煙草の吸殻が彼が帰ってきたことを教えてくれるけどもう何日も顔を見ていない。


寂しい、なんて思うほどの距離ではないけどゴミ箱に捨ててあるインスタント食品を見ると心配になる程度には彼のことを考えている自分がいた。



外に出たのは、ほんの気まぐれだった。


私が今こうして生活できているのは、他でもない秀一のおかげだから。必要なものがあれば買えと彼が置いていってくれたお金を持ち玄関の扉を開けた。


土地勘なんてあるわけなくて、明かりの集まる方へと歩いていくとすぐに大型スーパーの姿が見えた。



何が好きなんだろ、あの人。


一緒に住んでいるというのに私は彼のことをよく知らない。


こんな風に買い物に来るのは久しぶりのこと。ジンは私が1人で出歩くのを良しとしなかったから。彼と出会ってから1人で外を歩くなんてほとんどなかった。


それを窮屈に感じたことは1度もなくて。



いつの間にかそんなことを考えていた自分にはたと気付き、小さく首を振る。


思い出すな。

・・・・・・思い出したら駄目だ。


必死にそう言い聞かせながら、適当な食材達をカゴに入れていく。



会計を済ませ、来た道を戻る。スーパーから離れると明かりは疎らになる。等間隔に並んだ街灯に照らされた路地を歩いていると、通りの向こうから近付いてくる2つの黒い影。



「・・・・・・っ、」


見間違えるはずのないその姿。思わず息を飲み、ぴたりと足が止まる。


カツカツ、と音を鳴らしなが近付いてくる影。



「なまえ?」
「っ、・・・・・・ウォッカ・・・」


私の姿を見て足を止めたのは、ウォッカだった。


そんな彼とは反対に、ちらりとも私を見ようともせず足を進めるジン。



「・・・っ、アニキ・・・?!」
「何をしてる、さっさと行くぞ」


私とジンの顔を交互に見ながら困惑の表情を隠そうともしないウォッカに、吐き捨てるようにジンは言い放つ。


買い物袋を持っていた手にぎゅっと力が入る。



・・・・・・視界にすら・・・、もう入れてくれないの・・・?



まるで私なんて見えないみたいに。同じベッドでその体温を感じた夜が幻のようにすら思える。


あぁ、なんだ。私、全然変われてないじゃん。


あんな風に捨てられたのに。こんなにも彼のことを欲してる。


今すぐにでも手を伸ばして縋り付きたくなる。



「・・・・・・ジン・・・」

ぽつりと呟いたその名前。

静かな路地に響くその声は、たしかに彼の耳にも届いたはず。すれ違ったジンは足を止め、振り返る。


その冷たい瞳が私を捉えたのは一瞬で。すぐにその視線は、隣にいたウォッカに向けられる。



「・・・・・・行くぞ」
「っ、アニキいいんですか?なまえが・・・」
「何度も言わせるな。1度捨てたゴミなんかいらねぇよ」


地を這うような冷たい声。いつだったか、誰かがジンのことを冷血漢だと言っていた。あの時はそんなことないって思っていたはずなのに、目の前にいる彼は間違いなくその言葉がぴったりで。


心臓を抉られるような痛みが全身を走り抜ける。



嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・。


置いていないで。捨てないで。



「・・・・・・待って、ジン・・・!」
「離せ」
「何が駄目だったの?全部言う通りにするから!だからお願い・・・・・・、いらないなんて言わないで・・・」


ふらふらと覚束無い足取りで彼に近付き、縋るようにその腕を掴む。


久しぶりに感じた彼の体温。黒に包まれた彼は夜の闇に溶けて消えてしまいそうで、掴む手に力が入る。


「・・・・・・離せ。何度も同じことを言わせるな」

振り払われた腕。その衝撃でぐらりと体勢を崩した私は、地面に倒れ込む。


射抜くような冷たい視線。ぞくりと背中が粟立つ。



「・・・・・・してよ・・・」
「あ゛?」
「捨てるなら殺してよ!!いらないなら殺せばいいじゃない!!ジンならそれくらい簡単でしょ?!」


気が付くと涙がボロボロと溢れ出していた。静かな路地に私の泣き叫ぶ声が響く。


ジンは顔色ひとつ変えずに私を見下ろす。隣に立つウォッカの方がオロオロと動揺を隠し切れていなくてよっぽど人間らしく思えた。



「・・・・・・・・・中途半端に・・・助けないでよ・・・っ・・・・・」


嗚咽混じりに紡いだ言葉。


真っ暗な私の世界で、唯一の光だったから。



「・・・・・・お前のことを助けた覚えはねェよ」


こんな風に突き放すなら、あの日≠ノアレと一緒に殺して欲しかった。


知らなければ望むことだってなかったのに。


座り込んだままの私の手を引いて立たせようとしてくれたウォッカをひと睨みすると、背中を向けて歩き出すジンは振り返ることすらしてくれない。



「・・・・・・最近のアニキは昔とは違う。いくらお前でも下手なことは言わねぇ方がいい」
「・・・・・・、」
「なまえの死体を片付けるなんて、俺はごめんだからな」



サングラス越しではっきりと表情は見えないけれど、ウォッカの声色には私を案じる気持ちが滲んでいてそれがまた涙腺を刺激する。


1度はジンに睨まれて引っ込めた手で私を引っ張り起こすと、そのまま背中を向けてジンを追いかけるウォッカ。


静まりきった薄暗い路地に1人。


自販機の影にずるずると座り込んだ私に立ち上がる気力なんかなくて。


辛いとか寂しいとか、そんな気持ちじゃない。もうなにも考えたくない。


利用されてもいい。愛なんてなくて身体だけを乱暴に求められるだけでもよかった。どんなに痛めつけられてもいいから・・・・・・。


ただ傍においてくれたらそれだけで幸せだったのに。

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