Love is blind. | ナノ
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▽ 半分の体温


理由なんてない。

ただその存在が気になったから。


ここに置く以上、守ると約束した以上、俺がなまえに居場所を与えるのは当たり前のことだった。

けれどなまえはそれを当たり前とは思えなかったらしい。


与えられることを不安に感じ、それどころか身体を差し出そうとすらするなまえ。


彼女が生きてきた環境がきっとそうさせているのだろう。


少しの沈黙の後、膝の上から降りたなまえは再びラグの上に座った。


氷が少し溶けて薄くなったウイスキーを口に運びながら彼女の言葉を待った。



「・・・・・・ソファ」
「ソファがどうした?」
「いつも私がベッドで寝てるから。秀一の方が疲れてるはずなのにソファで寝てる」

ぽつりと呟かれた言葉に少しだけ驚く。そんな事まで気にしているとは思っていなかったから。


「ふっ、そんなことを気にしていたのか?」
「笑うとこじゃないでしょ・・・っ!」
「悪い悪い。別に俺はどこでも寝れるからそんなこと気にしなくていい」


不貞腐れた表情を見せる彼女が子供みたいで思わず笑いがこぼれた。

いつもそんな風に素直に感情をだせばいいのに。なんてそんなことを思った。



「・・・・・別に私の身体目的でもないんでしょ?」
「あぁ。自分に興味のない女を抱く趣味はないからな」
「だったらいいよ」


いいよ、とその言葉の意味が分からなくて小さく首を傾げるとなまえは言葉を続けた。


「一緒にベッドで寝たらいいじゃん。あのベッド広いし」
「お前がいいなら俺は別に構わないが」
「だったら話終わり。寝よ」


ふいっと顔を背けたなまえ。少しだけ残っていたミルクティーを飲み干すと、そのまま立ち上がる。


寝室へと向かう後ろ姿を見ながら、自然と小さな笑いがこぼれる。


分かりやすい女だ。

ただ与えられているこの状況がずっと不安で。俺が自分をここに置く理由を探していたんだろう。


そして何を求められるのか、きっと不安もあったはず。


けどそれを素直に口にするほどあいつは簡単な女じゃないから。


俺は残っていたウイスキーを飲み干すと、そのままリビングの電気を消して彼女のあとを追った。






広いとは言っても二人で寝転ぶと肩が触れる距離。


自分から誘ったくせに、もぞもぞと背中を向けるなまえがおかしくて。


お互いに口を開くことはなくて、ただ時計の音だけが部屋に響く。


そういえばこうして誰かと眠りにつくなんて久しぶりのこと。


自分以外の体温を感じる。不思議と居心地は悪くなくて、そっと目を閉じる。



「・・・・・・・・・ねぇ」
「どうした?」

それは聞き逃しそうなほど小さな声。


背中を向けたままのなまえ。俺は寝返りを打ち彼女の方を向く。



「・・・・・・ありがと」

こちらを向くことなく呟かれたその言葉。予想していなかった言葉に、自然と目尻が下がる。


少しだけ、彼女が心を開いてくれたようなそんな気がした。



どれくらい時間が経ったんだろうか。


不意に目が覚めた俺は、胸元に擦り寄ってきていたなまえの存在に気付く。


温もりを求めるように胸に顔を寄せる彼女。起きている状態なら有り得ないその距離。


長い睫毛が閉じられた瞼にかかっていて、規則正しい寝息が聞こえる。長い黒髪の間から覗く白い首筋。


ジンにつけられた傷はいつの間にか癒えていた。


そっとその首に触れると、ぴくりと反応するなまえ。


それでも彼女が目を覚ますことはなくて。


ぎゅっと俺の服を握るその小さな手。


手を出すつもりはない。
けれどこの距離は少しだけ心臓に悪い。



その時、なまえの顔が少しだけ歪む。

何か夢を見ているんだろうか。


苦しそうに歪むその顔を見ていたくなくて、そっと額から頬にかけてを指でなぞる。







「・・・・・・・・・・・・ジン・・・・・・っ・・・」


小さく呟かれたのは、彼女の心を占めるあの男の名前。


どうして。


幸せそうな顔をしてその名前を呼ぶならまだ分かる。


そんなに顔を歪めながら何故・・・。


それは理解できない感情だった。






「っ、!!!」
「・・・ん、起きたのか」

カーテンの隙間から差し込む太陽の光。それに目を細めながら少し目線を下げると、腕の中で固まるなまえの姿。


ぱくぱくと言葉にならない様子で頬を赤らめるその姿にくすりと笑う。


「っ、何もしないって言ったのに!」
「朝から元気だな、お前は」

腕の中から抜け出したなまえは、そう言いながらこちらを睨む。


「言っておくが俺は何もしてない。お前が勝手に擦り寄ってきただけだ」
「っ、」
「まぁ湯たんぽ代わりにはなったから礼を言う」


怒ったり赤くなったり。くるくると変わるその表情。昨日の辛そうな表情が嘘のようだった。

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