君ありて幸福 | ナノ
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▽ キミに謝りたいこと



なまえのことを何もかもを理解しているかのような萩原。その姿に込み上げてくる嫉妬心。真っ黒な何かが心を覆う。


萩がその場からいなくなると、不安げに瞳を揺らすなまえ。きっと無意識なんだろう。それがさらに胸を締め付けた。



家の前で話をするわけにもいかず、近所にある公園のベンチに腰かけた俺達。


昔よく三人で遊んだ懐かしい場所。全ての遊具達があの頃よりも随分小さく見えた。


それは俺達がそれだけ大人になってしまったということ。



「昔からずっと一緒だったよな、俺達三人」
「・・・・・・うん、そうだったね」



ずっと隣には二人がいた。



「ガキの頃からずっとお前は萩原の後ろばっかり追いかけてたっけ」
「研ちゃんは優しいから。それに甘えてただけだよ」


俺にとっても、萩原にとっても、なまえは特別な存在だった。


いつからそれが“好き”という気持ちになったんだろう。振り返ってみても分からない。


気がついたときには、なまえの笑顔を独占したいと思っていた。


三人で過ごす時間が楽しいと思う反面、萩原にだけ見せる表情に嫉妬した。



ずっと一緒だったから。
長く同じ時間を過ごしてきたから・・・。



二人の距離が変わったことに気付かないわけがなかった。


何となくそれに気付いたのは、俺が彼女を作りそいつとの喧嘩が増えてきた頃だった。


なまえが萩原だけに見せる弱さ。萩原はそれを全て許容して、まるで彼女を割れ物のように大切にしてきた。


二人ともお互いのことを、好きだと認めてくれたらいい。


そうすればこのやり場のない気持ちも少しは消化することが出来るかもしれない。


けれど萩原はふわふわといつもその質問を躱す。なまえも同じだ。根っこの部分は絶対に話そうとはしない。


後悔をしたくない。


だから隠しきれなくなった想いを伝えた。


受け入れてもらえるとは思っていなかった。けれど泣かれる理由は、どれだけ考えても分からなかった。


ましてやずっと抱えてきたこの気持ちを否定されるなんて思ってもいなかった。



「俺がお前のこと好きだって言った気持ちはさ、あの時の勢いでもなんでもねぇ。嘘偽りない本心だ。だからなまえも正直に答えてくれないか?」
「・・・・・っ・・・」
「もう一回聞く。なまえにとって俺は幼馴染み以上にはなれねぇーの?」


今すぐじゃなくてもいい。

この気持ちを受け入れてくれる可能性が少しでもあるなら・・・・・・。





「・・・・・・ごめん・・・っ・・・」


そんな一抹の望みすら絶たれる。
震える声で告げられたその言葉。


溢れそうになる涙を必死に堪えているなまえ。



「なんで泣くんだよ。・・・・・・なんで・・・っ、なんで・・・・・・、いつもそんなに辛そうな顔してんだよ・・・っ!」


我慢することの出来なかった感情が溢れ出した。思わず声を荒らげた俺に、びくりとなまえの肩が震えた。


気持ちを受け入れてもらえなかったことよりも、俺の顔を見る度にこうして辛そうな顔をするなまえに腹が立った。


その理由がどんなに考えても分からないから。


「お前も萩原も何隠してんだよ・・・・・・」


一人だけ除け者にされたかのような孤独感。子供じみたそんな感情に、嘲笑的な笑みがこぼれた。



「・・・・・・陣平ちゃんの気持ちは嬉しいよ。ありがとう。・・・・・・でも陣平ちゃんの隣にいるべきなのは私じゃないから」
「またそれかよ・・・」


繰り返されたその言葉。思わずぐっと拳を握る。


「陣平ちゃんが今好きって思ってくれてるのは、たまたま私が幼馴染みとしてずっと一緒にいたからだよ」
「・・・・・・はぁ?」
「私だからじゃない。陣平ちゃんも研ちゃんも、私だからじゃないんだよ」


うわ言のように繰り返すその言葉に苛立ちが募る。




「お前だからだろ!!お前だから俺は好きだって思ったんだ!!萩原もお前だからあんなに大事にしてんだろ!!」
「っ、それは・・・っ」
「なまえ!お前は何を見てんだよ、いつも!目の前にいる俺達の言葉より信じるもんなんかねぇだろ!」


悪い癖だ。

感情のブレーキがうまく効かない。


頭で分かっていても言葉が止まらなかった。



なんで伝わらないのか分からなかった。



「信じてないわけじゃないよ・・・・・っ・・・」


まるで子供のようにボロボロと涙をこぼしながらそう言ったなまえ。右手で涙を拭いながら顔を隠す。


思わずその腕を掴んだ俺は、そのままなまえへと近付く。


泣かせたいわけじゃない。
好きな女が泣いているのを見て、俺だって平気なわけがない。


たとえその涙の理由が分からなくても、思うことはひとつだった。


「泣くんじゃねぇよ。お前が泣いてるとどうしていいか分かんなくなる」
「・・・っ・・・」
「俺は萩原みてぇにお前の考えてることが分かるわけじゃない。だからちゃんと説明してくれ。なまえのこと泣かせたいわけじゃねぇから」


きっとあいつなら黙ってなまえを抱き締めてやったんだろう。何も聞かず、ただその温もりだけを与えたはず。それがなまえの安心に繋がるのかもしれない。


けど俺はそうはできない。何も聞かずに優しく寄り添うなんてできないんだ。


その涙の理由が知りたかった。

理由があるならそれをどうにかしてやりたい。


掴んでいたなまえの腕を少し引くと、そのままぐらりとバランスを崩す彼女。


その身体はぽすりと俺の胸の方へと傾いた。


「っ、!」
「逃げんじゃねぇよ」


頭が俺の胸に触れると、慌てて距離を取ろうとするなまえ。俺はそのままなまえの背中に右手を回した。


「っ、離して、陣平ちゃん・・・!」
「お前がちゃんと話すまで離したくない。嫌なら本気で突き飛ばせばいい」



男と女の力の差。
ぐっと俺の胸を片手で押すけれど、そんな弱い力ではビクともしない。


なまえが本気で俺を拒否するなら、そのときは潔く引こうと思った。


けれどそうじゃないなら・・・・・・、




「・・・・・・・・私は幼馴染みとして陣平ちゃんのことが大切なの。このままの関係を壊したくない」
「それがお前の本音なんだな?」


最後まで涙の理由を語ろうとしないなまえは、俺がそう尋ねると小さく頷いた。


なまえの肩を抱いていない方の手でぎゅっと拳を握る。これ以上ここでこいつに何か聞いたところで、追い詰めるだけだろう。



俺はそっと腕の力を緩めた。



ゆるゆると離れた身体。すぐ近くにいるのになまえの存在が、とても遠くに感じた。



「悪かったな、問い詰めるような真似して」
「・・・・・・陣平ちゃんは何も悪くないよ」


まだ少し震える声でそう言ったなまえ。


俺達はどこですれ違ってしまったんだろうか。


なまえの雰囲気が変わったことにもっと早く気付けたら。

自分の気持ちをもっと早く認めて伝えていれば。


そんな“たられば”の未来ばかりを考えてしまう。



「すぐにただの幼馴染みにはもどれねぇわ。ごめん」
「・・・・・・・・・うん、分かってる」
「家まで送る。こんな時間まで付き合わせて悪かったな」


これは俺の我儘だ。

なまえの望む今まで通りの幼馴染みになんてすぐに戻れるわけがなかった。


どうしたってこの気持ちは消えてくれない。


なまえを欲してしまう。
あいつが心の中で抱えているものを知りたいと思ってしまう。


それを抑えて今まで通りの関係でいるなんて、俺にはできなかった。

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