▽ 8-4
side Y
大丈夫だと言い張るみょうじさんに後ろ髪を引かれながらも、仕事が残っていることもたしかなのでしぶしぶ自身の車に戻ったオレは深いため息をついた。
降谷さんもみょうじさんもお互いのことをあれほど大切に思っているのに、どうして離れなければいけないんだろうか。
そのとき、ポケットに入れていた携帯が振動した。
病院だったのでマナーモードにしていたことを思い出し、慌てて携帯の画面を見るとそこには降谷さんの名前。
「もしもし!お疲れ様です」
『もしもし、お疲れ様。今かまわないか?』
一瞬、みょうじさんのことかなと思ったけれど、内容は全く別の仕事のこと。それもそうだ、彼は彼女が病院に運ばれたなんて知るはずもない。
『じゃあ頼んだぞ』
「はい、分かりました。・・・・・っ、あの、降谷さん・・・!」
用件を話を終えると電話を切ろうとした降谷さん。思わずそれを引き止めてしまう。
みょうじさんは言わないで欲しいと言っていたが、降谷さんに彼女のことを頼まれている手前やはり黙っているわけにはいかなかった。
『ん?どうした?』
「みょうじさんのことなのですが・・・『なまえがどうかしたのか?』
みょうじさんの名前を出すと降谷さんの声色が変わり、オレの言葉に被せるように投げかけられる質問。
「・・・・・・今日の昼間、仕事で外出していたようなのですが、仕事を終え帰る際に訪問先のビルを出た直後に倒れました」
『っ!』
「幸い軽い熱中症と栄養失調とのことで病院に運んでからしばらくすると意識は戻りました。数日の入院は必要ですが、大事はないとのことです」
『・・・・・・そうか。風見が見てくれているときでよかったよ』
電話口から聞こえてくる降谷さんの声は、どうにも切なくて彼女を案じる気持ちが痛いくらいに伝わってくる。
『米花総合病院に入院中です。様子を見に行かれては・・・』
お節介かもしれない。部下の自分がそこまで立ち入るべきではない。頭では分かっていたが、気付くと彼女の入院している病院の名前を口にしていた。
『行かない。その様子だと風見が病院に運んだことをあいつは知ってるんだろ?』
「・・・はい。意識が戻るまで自分が病室にいたので」
降谷さんからみょうじさんのことを頼まれたことが彼女にバレてしまったことを申し訳なく思い、語尾が小さくなる。
『僕が風見に頼んでるのもバレたんだろ?別に怒ってない。むしろ心配かけて悪かった』
「・・・っ、そんなこと!」
『悪い、今からポアロに行かなきゃいけないんだ。また連絡する』
そう言うとプツリと切れた電話。
無機質なツーツーという音だけが虚しく響く。
あの様子だと降谷さんがみょうじさんのお見舞いに行くことはないだろう。
どうすればいいのだろうか。
答えのでないその問いに考えを巡らせながら、オレは車のキーを回した。
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