▽ 4-2
雨粒が窓を打つ音で目が覚めた。せっかくの休みだといつのに、大雨とはついていない。
ふと自分の右手に温かさを感じる。
「そういえば昨日は店まで零が迎えに来てくれたんだっけ・・・・・・」
昨日の曖昧な記憶をたどる。二日酔いでズキズキと痛む頭に手を当てながら体を起こす。
「・・・・・・ん、起きたのか」
ベッドに上半身だけを預け伏せていた零が目を覚ます。
「おはよ。昨日迎えに来てくれたんだよね、ありがと」
「いいよ別に。酔っ払いの面倒を見るのはもう慣れた」
欠伸をしながら両手をぐっと天井に向けて伸ばす彼。当然握られていた右手も離れていく。
寂しい。
その温度を求めてしまうのは、きっとあんな夢を見たせいだ。
そんな私の心の内を知ってか知らずか、優しい幼なじみは私の頭を撫でる。
「めちゃくちゃ顔浮腫んでるな、ブサイクになってる」
「・・・・・・うるさい、馬鹿!」
憎まれ口を叩くのも彼の優しさのひとつだろう。
私はずっと彼に守られているのだ。
*
「雨だね、今日」
「あぁ、一日中天気悪いみたいだな」
向かい合って朝ご飯を食べながら窓の外へと視線を向ける。まだ朝だというのに薄暗くどんよりとした空。そんな空を眺めていると気分が滅入る。
「今日も仕事でしょ?」
「あぁ、でもそんなに遅くはならないと思うよ」
ひと足先に食事を終えた零が食器をキッチンへと運んでくれる。
「一緒に洗うから置いといていいよ」
「サンキュ、用意してくる」
自分の部屋へと向かう彼の背中を見送る。
食べ終わった自分の食器をキッチンに運び、蛇口をひねる。色違いのマグカップと同じデザインの食器達。一見すると同棲カップルのように見えるそれにちくりと胸が痛んだ。
私はずるい人間だ。
さすがにもういい歳だし、零の気持ちに気付かないほど鈍くもない。
いくら優しい幼馴染みでも、なんとも思っていない女に彼はここまでしないだろう。
好きになれたら・・・・・・、そう思ったことは何度もあった。不器用だが優しくていつも私のことを守ってくれる温かい人。
惹かれる部分はたしかにあった。
けれどそれ以上に、零の存在は私にヒロくんを思い出させるのだ。
ずっと三人で一緒にいた。けれどその三つの歯車は、二度と噛み合うことがないのだ。
一つ欠けてしまった歯車が、うまく回るはずがない。
私と零の時間は、あの日で止まっているんだ。
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