▽ 3-4
夢なんだから早く覚めて欲しい。
ふわふわと記憶を辿る。このまま夢を見続ければ、“あの日”にたどり着いてしまう。明晰夢というのだろうか、私はこれが夢だと分かっていた。
だって現実なら会えるわけがないんだもん。
早く覚めて欲しい気持ちと、もう記憶の中でしか会えない彼に会いたい気持ち。
二つの気持ちでぐらぐらと心が揺れる。
*
ヒロくんと別れて傷心に浸っていた私。零にもあの日のお礼を言おうと思って電話したが、聞こえてきたのはヒロくんと同じ機械音だった。きっとあの紙に書かれた番号にかければ、連絡はとれるんだろう。でも弱い私は、どうしてもその勇気が出なかった。
どんなに傷付いていても、社会人として仕事に行かなければいけない。動けばお腹も減るし、夜は眠たくもなる。意外と薄情なもんだなぁと思った。それでも毎日眠る前は、ヒロくんと零の三人で過ごした日を思い出しては枕を濡らしていた。
季節がいくつか流れたある日。
仕事を終え帰宅した私は、マンションの下で彼に会った。薄暗い道の街灯の下、遠くからでも分かる。
そこにいたのは、零だった。
「・・・・・・零?」
ぽつりと呟いた名前に、はっと顔を上げる彼。その表情を見た瞬間、思わず私は彼に駆け寄った。
「・・・・・・何があったの・・・?
・・・・・・なんでそんな泣きそうな顔してるの・・・?」
いつも自信満々な零。強くて前を向いていた彼。
それが今にも消えてしまいそうだった・・・、腕を掴んでいないといなくなってしまいそうに見えた。
「・・・・・・なまえ・・・・・・、ごめん・・・」
私の腕に縋り付きながら、うわ言のようにごめんと繰り返す零。そんな彼を見たことがなくて、どうしていいのかわからなかった。
「・・・・・・大丈夫だよ。零、何があったの・・・?私はここにいるから・・・」
「・・・・・・っ・・・ごめん・・・」
それでも謝罪の言葉を繰り返す彼の背中をゆっくり摩る。何がここまでこの人を傷付けたんだろうか。
涙こそ流していないが、心がボロボロなことくらい見れば分かる。
私はいつかのヒロくんにしたように、手を握り「大丈夫だよ」と繰り返した。
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