続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 7-4



Another side


久しぶりに懐かしい夢を見た。


眠る前に懐かしい人を思い浮かべたせいだろうか。


幼少期の懐かしい思い出から、警察学校時代の思い出。公安として組織に潜入した頃の思い出。



まるで自分の人生を振り返っているかのような気持ちになった。



大切だと思った人達はもう傍にはいない。



俺の名前を呼ぶ懐かしい顔が、気がつくと真っ赤に血塗られたかのように塗りつぶされていく。


それと同時に辺りが真っ暗になる。

何も見えないその世界に、不安が襲ってくる。




『零くん』


そんな中で聞こえた優しい声。


今ではもう少なくなった俺の事を名前で呼ぶ存在。



なまえ。


自分の使命と同じくらい大切だと思える彼女の存在。


彼女がいてくれるから自分はまだこうして立ってられる。


もちろん今の俺があるのは、今まで積み重ねてきた時間があるから。今は亡き仲間達のスキルや思い出はたしかに俺の中で生きている。


そう思えるようになったのも、なまえの存在が大きく影響していた。


過去を悔いてなかったことにするよりも、受け入れて今の自分があることを認める。彼女の考え方に感化されたからこそ前に進めた。



自分の中でなまえの存在が大きくなりすぎていることは、少し前からわかっていた。


公共の利益のために、この身を捧げることに対して少しの迷いもない。それは今も変わらない。


けれどその対象が彼女だったら?


彼女以外の全ての人の為に彼女を犠牲にする必要に迫られた時、俺はその判断ができるのだろうか。


きっと彼女はその身を犠牲にすることに躊躇はないだろう。そういう女性だからこそ好きになったのだ。


けれどその時俺自身が迷ってしまうのではないか。そんな日が来るかは知らないが、ふと考えてしまう。



随分と弱くなってしまったものだ。


なまえと出会う前の自分はもっと強くいることができていたはず。彼女が俺を赦してくれるから、その優しさに甘えてしまう自分がいた。



彼女がいなくなってしまったら・・・?



その世界で俺は、変わらずにいることができるんだろうか。







はっと目が覚めると、体に嫌な汗がまとわりついていた。


隣でベッドに上半身だけを預け、突っ伏して寝ていたなまえが目を覚ます。



夢か現か。

目の前に彼女は確かにいるはずなのに、その存在が現実のものか不安になり名前を呼ぶ。


いつもとは様子の違う俺を見て、彼女はそっと背中に手を回し一定のリズムで背中を叩く。



「大丈夫だよ。私はここにいるから。ずっと零くんのそばにいるよ」


抱きしめてくれている彼女の肩に頭を預けると、ふわりと少し甘いシャンプーの匂いが香る。嗅ぎなれたその香りは彼女が確かにそこにいると教えてくれる。



「・・・・・・夢を見たんだ」


どれくらいの時間が経ったのか。

俺はなまえの肩から頭を上げ、ぽつりと呟いた。



自分の生い立ちを振り返るかのような夢。


失ってしまった大切な存在。


まとまりのない俺の話をなまえは黙って聞いてくれた。


「なまえのいない世界が想像できないんだ。もしまたなまえを失ったら、その時また一人で前を向けるか正直わからない。・・・・・・それが怖いんだ」


なまえが元の世界に戻っていた間、俺は彼女の存在を諦めこそしなかったが自分の役割だけはきっちりと果たしていた。

それが自分の成すべきことだと思っていたし、そこを違えることはなかった。



けれど今はどうだろう。


再びあの状況になった時、俺は同じ行動をとることができるんだろうか。



なまえは何も言わずただ黙って俺の背中を撫でてくれていた。その小さな手は温かくて安心感を与えてくれる。それと同時に弱くなった自分を実感させられる。


「・・・・・・弱くなったな、俺」


良くも悪くもなまえと出会う前と後では変わってしまった自分。ぽつりとそう呟くと、背中を撫でていたなまえの手が止まった。


「私は嬉しいよ?零くんがこうして思ってることを素直に伝えてくれるの」

丁寧に言葉を選びながら彼女は思いを紡いでくれる。

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