続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 7-5



目の前のこの人は、私なんかの何倍も強い人。強くあろうとする人。


他人にも厳しいが自分に対しても厳しい彼が、誰かに甘えるなんて昔は想像できなかった。


そんな彼がこうして素直に自分の弱さを吐き出してくれていることが、どれくらい私にとって大きなことか気付いているだろうか。


たくさんの物を失ってもそれでも彼が前を向くことができているのは、その心の強さの賜物だと思う。


「ずっと頑張っててえらいね、零くんは」


口からこぼれたのは、彼に対する賛辞の言葉だった。


傷つかないわけじゃない。人並み以上に失うことに対して敏感な彼。他人に厳しいけれど、同じくらい他人を思いやることが出来て自分以外のものの為に尽くせる人。


そっと零くんの頭に触れその髪を梳くと、肩が小さく揺れた。


誰かに褒められるためにやっているわけじゃないことは分かってる。けれど何故かこうしたくなったのだ。



「ずっと頑張って前を向いててくれてありがとう」
「なんでなまえが礼を言うんだ・・・?」
「零くんがどんなに辛くても諦めないで頑張ってくれたから、こうして一緒にいることができるんだもん。どこかで零くんが折れてたら今の私達は存在してない」
「・・・・・・」
「だからありがとう」


彼の不安も弱さも全て受け止めてあげたいと思った。彼が一人で抱えているものをほんの少しでもいいから持ってあげたいと。


その瞬間、背中に回っていた手に思いっきり力が入りぐっと引き寄せられる。交わっていた視線がぐるりと変わり、彼の肩に頭を押し付けられる。


「・・・っ、零くん?」


その力の強さに驚き少しだけ目を見開き彼の名前を呼ぶ。


「ごめん、今は顔を見られたくない」
「え?」
「・・・・・・多分情けない顔してると思う。なまえにそんなとこは見られたくない」


紡がれた言葉は少しだけ震えていて、今までのどの言葉よりか細いものだった。



「零くんはいつもかっこいいよ。情けなくなんかない」

頬にあたる金色の髪にそっと触れる。


思えばここまで誰かを愛おしいと思うのは初めてのことだ。


どちらかと言えば私は“愛されたい”人間だ。


自分に自信がないから他者からの愛情で自分の承認欲求を満たそうとする。振り返れば母親に対しても、過去の恋愛もそうだった気がする。


けれど目の前の彼に対しては違う。


自分より強い人なのに守ってあげたい。愛したい。大切にしたい。そう思えるのだ。



「零くんが弱いとは思わないよ。貴方はちゃんと一人で前を向ける人」
「・・・・・・」
「迷うことだって間違いじゃない。誰かに甘えるのも悪くない。人間は一人じゃ生きていけないもん」


誰だって弱さと強さの両方を心に抱えている。


「零くんは迷っても悩んでも、ちゃんと判断を見誤らない人だから。だから大丈夫だよ」


たとえ私がいない世界でも、彼は彼の思う信念を全うするだろう。


「それに約束したでしょ?ずっとそばにいるって」
「・・・・・・あぁ」


小さく返ってきた返事。

肩から顔を上げるとお互いの視線が交わる。



「私重たい方だから、零くんがもう嫌だって言っても離れてあげないんだから」


冗談めかしてそう言うと、やっと彼の表情に少しだけ笑みが浮かぶ。


優しく下がった目尻。ふっと零れた笑み。


「それは俺の台詞だろ。なまえが逃げようとしたってどこまででも追いかけてやる」

彼の執念深さはよく分かっているつもりだ。もちろん私が彼から逃げるなんて事はありえないし、冗談なのも承知だが容易に想像できるその姿にくすりと笑いが漏れた。


「零くんが好きだよ。ずっと一緒にいたい。弱さも強さも、今の零くんを作る全部が私は大切なの」
「・・・・・・俺に甘すぎるよな、なまえは」


ことん、と私の胸に頭を預け小さく息を吐く彼。


誰にも甘えない彼を私くらい甘やかしたってバチは当たらないだろう。


その柔らかな髪に指を沈めながら撫でる。


「私の特権だからね、零くんのこと甘やかせるのは」


ふふんっと笑うと、つられて彼も笑う。


「・・・あ!体調!もうしんどくないの?」
「あぁ、もう熱も下がったみたいだし、大丈夫だと思う。ありがとう」
「よかった。体調管理も仕事のうちだからね、無理しちゃダメだよ?」


彼がいつも言っている言葉を真似てそう言うと、零くんは少し困ったように笑った。

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