▽ 6-1
※ ここから先は瞳の中の暗殺者のネタバレ、内容の一部改変を含みます。苦手な方はご注意ください。
開けっ放しになっていたカーテンから太陽の光が射し込む。
泣き疲れていつの間にかソファで寝てしまっていた私は、その光の眩しさで目が覚めた。
「・・・・・・めちゃくちゃ目腫れてる・・・」
顔を洗おうと、洗面台に向かい自分の顔を見た瞬間思わずそんな言葉がこぼれた。
私の精神状態なんて関係なく時間は流れていくし、仕事にだって行かなきゃいけない。冷たい水で勢いよく顔を洗い、ぱん!っと両手で頬を叩く。
しっかりするんだ。
そう自分に言い聞かせながら、朝の用意を始めた。
*
起きた時は晴れていたのに、今はしとしとと雨粒が店の窓を打ちつける。
どんよりと暗い空がまるで自分の心の中のように感じて、ますます気が滅入りそうになる。
それでも時間はいつも通り流れていく。
違うことといえば、もう昼を過ぎたというのに一度も零くんから連絡がないということくらいだろうか。
私なんかの何倍も忙しい彼だが、たとえ会えなくてもいつも合間に連絡をくれていた。その優しさを今になって改めて思い知る。
はぁ、とこぼれそうになったため息を飲み込む。
「なまえちゃん、ちょっといい?」
洗い終わったグラスを片付けていると後ろから店長に声をかけられる。
「どうしましたか?」
「あのね、ちょっとお願いがあって・・・」
そう言いながら店長が私に差し出したのは一枚の封筒。
「よくお店に来てくれる加藤さんっているでしょ?あの人が今度米花サンプラザホテルにお店をかまえることになったみたいなの。日本料理の料理人さんってことは聞いていたんだけど、そんなすごい人だなんてしらなくてね・・・」
店長の話はこうだった。
この店によく足を運んでくれる常連さんが今度米花サンプラザホテルに自分の店を出すことが決まり、そのオープニングイベントに呼ばれたがどうしてもその日に予定があり行くことが出来ないので代わりに行って欲しいとのことだ。
「でも私なんかでいいんですか?」
「大丈夫よ!加藤さんはなまえちゃんのこと気に入ってるし、私からもちゃんと話しておくから!」
「わかりました。じゃあ代わりに参加させていただきます」
「ありがとう!本当に助かるわ!」
たしかに加藤さんは気のいいおじちゃんで、私にもいつもニコニコと接してくれる優しい人だ。自分が言ってお祝いを伝えることができるなら、私だって嬉しい。
そんな思いから私は店長の頼みを承諾した。
*
辺りが暗闇に包まれ、街に街灯がともり始める時間帯。朝から降り続いていた雨も、夕方には止んだようだ。
零くんはいないだろうな・・・と思いつつも、仕事終わりにポアロ近くにやって来た。
案の定店にいたのは、梓さんとマスターだけで他愛もない話をして紅茶を一杯だけいただき店を後にする。
外に出て家に向かって歩いていると、少し疲れた表情のコナン君とすれ違う。
「コナン君?こんな時間に一人?」
まだ深夜とまではいかないが、子供が一人でうろつくには少し遅い時間帯。
思わず彼を呼び止める。
「・・・あ、なまえお姉さん。さっきまで米花警察署に行ってたんだ」
警察?何かあったんだろうか。
「なまえお姉さんまだ今日の事件のニュース見てない?」
「今日はまだ家に帰ってないからニュースは見てないや。何かあったの?」
そういえば今日はぼーっとしていたせいか、携帯のニュースすら見ていなかった。
「現職の刑事さんが打たれてなくなったんだよ。歩美ちゃん達とボクがたまたまその現場に遭遇して、目暮警部達に事情を聞かれてたんだ。犯人のこと追いかけたんだけど、逃げられちゃって・・・」
「っ!コナン君や皆は怪我しなかったの?」
「うん、大丈夫だよ」
そんな事件があったなんて知らなかった。
また私の知らない事件。
現職の刑事が亡くなったという言葉は、私の心に重くのしかかった。
「まだ警察に恨みがあっての犯行って決まったわけじゃないから、あんまり考えすぎないでね」
私の心の中を見透かしたかのように、コナン君が心配そうにこちらを見る。
「・・・うん、ありがとう。帰り一人で大丈夫?送っていこうか?」
「大丈夫だよ!すぐ近くだし!なまえお姉さんも気をつけて帰ってね」
ひらひらと手を振りながら去っていくコナン君の後ろ姿を見送る。
彼にまで余計な心配をかけてしまった。
警察というのは、一歩間違えたら誰かから恨みを買う仕事なのだ。
零くんだっていつも危険と隣り合わせの仕事をしている。
もしかしたらこのまま喧嘩した状態が続いて会えなくなるなんてことがあったら・・・・・・。
胸の奥がキリキリと痛む。
ポケットから携帯を取り出し、メッセージを確認するも彼からの連絡はない。
「はぁ・・・」
小さなため息が、夜の暗闇に静かにとけて消えた。
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