▽ 5-4
Another side
「・・・・・・クソっ!!!!」
駐車場に停めた車の中でドンっとハンドルを殴りながら、先程の自分の行動を悔いた。
ただ話して欲しかっただけだった。
何があいつを追いつめていたのか。
最近のあいつの表情を曇らせていたのが何だったのか。
・・・・・・・・・ただなまえにいつもみたいに笑って欲しかっただけなのに。
結果的に俺のとった行動は、あいつを余計に苦しめただけだった。
どうしたって俺には赤井のように優しく話を聞いてやるなんてあの状況では無理だった。
なまえが笑ってくれるならそれだけで頑張れたんだ。
俺はどうしたらいい?
どうしたらお前は前みたいに笑ってくれるんだ。
そのとき、ポケットに入れたままの携帯が振動する。
なまえか?と思ったが、そこに表示されていたのは風見の名前だった。
ふぅと小さく息を吐き、頭を軽く振る。
こんな状態では駄目だ。
まずは明日からの仕事のことを考えろ。
必死に頭から先程の彼女の表情を追い出す。
「はい、どうした?」
『明日からのことで確認が・・・』
風見と話している間に、頭が仕事モードへと切り替わる。
そうだ。今はこれでいい。
お互いに冷静にならなければ、話し合いもできない。
そう言い聞かせて、車のエンジンをかけた。
*
この時部屋に戻ってお前の話を聞いていればよかったのか。
数日後の自分が、それを死ぬほど後悔するなんてこの時の俺は知らなかった。
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