続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 2-6



家に帰ると、急いで晩ごはんの用意をする。


手伝おうか?と降谷さんは声をかけてくれたけれど、仕事で疲れてる彼に少しでもゆっくりしていてほしくて申し出を断る。



キッチンに立ちながら、部屋着に着替えた彼がリビングでソファーに座りながら携帯を触っているのを横目に料理を進める。



いつものぴしっとしたスーツでもなく、オシャレな私服でもなく、スウェット姿の降谷さん。



まぁ顔が整ってるからそんな服装でもかっこいいんだけど・・・。



その姿を見れるのが、自分だけの特権だと思うと自然と笑みがこぼれる。








「ごちそうさま」
「お粗末さまでした」



食事を終え、二人で箸を置き手を合わせる。食器をさげようとする降谷さんを制して、立ち上がる。



「ゆっくりしててください。ぱぱっと洗っちゃうので」
「いつもやってもらってるし、たまには俺が洗うよ」
「大丈夫ですよ。これくらいすぐに終わりますし」



立ち上がった彼の背中をソファーの方へを押す。しぶしぶソファーに腰掛けた彼が、ありがとうと笑ってくれる。それだけで私は嬉しいのだ。




洗い物を終え、色違いのマグカップにコーヒーを入れリビングへと向かう。



ソファーに座り携帯を触る降谷さんの顔を見ると、なにやら真剣な表情。僅かに眉間に皺も寄っている。



これは邪魔しない方がいいやつかな。


そう思った私は、隣ではなく少し離れた場所に腰掛ける。



そんな私に気付いたのか、何も言わず彼が自分の両足の間をぽんぽんと叩く。



「そっち行ってもいいんですか?」
「あぁ」



短く返された返事。マグカップを持ったまま彼の足の間にすっぽりとおさまる私。



彼の中で携帯を触りながら私のこともかまえるこの体勢は、最近のお気に入りらしい。



すぐ後ろに感じる降谷さんの体温に、どきどきと早鐘を打つ心臓。それを落ち着けるように、両手に持ったマグカップを口元へと運ぶ。



どれくらいの時間が経っただろうか。



彼に体重を預け、ぼーっとしていると携帯を机に置く音が聞こえた。



「・・・・・・っ!」



それと同時に、ぽすりと首元に顔をうずめる降谷さん。



「・・・・・・疲れたな」


彼が喋ると首筋に吐息があたる。その距離の近さに胸がどきどきと高鳴る。


それと同時に、こうして疲れたなどの弱みを見せてくれることを嬉しいと感じる。




「いつもお疲れ様です」
「ん」


短く返された返事。そしてそのままくんくんと私の首元、というより髪の毛の匂いをかぐ彼。



「香水とかつけてなかったよな?なんか今日匂いが甘い」
「あ、シャンプー変えたんですよ。最近CMでやってるサラサラになるやつ!」
「へぇ、いい匂いだな。甘くてうまそう」



そのまま髪の毛を少し摘むと、くんくんと匂いをかぐ彼。



うまそうって・・・・・・、褒め言葉なんだろうか。心の中で突っ込みながらもされるがままの私。



「なぁ」
「どうしたんですか?」


髪を弄っていた手がそのまま私の頬へとうつり、顔を彼の方へと誘われる。



漂う甘い空気に頭の中がくらくらとする。



こつんとあてられたおでこ。



「さっきの公園での独り言なんだったんだ?」
「独り言・・・?」



甘い空気とは似つかない真剣な眼差しの降谷さん。



そういえばそんなこともあったな・・・。



私の中ではすっかり忘れかけていた出来事。どうやら彼はずっとそのことを考えていたらしい。



そして何故かその考えはあらぬ方向へと向かっていたらしく・・・。



「・・・・・・また赤井が何かあったのか?」


その名前を出すことも彼的には嫌なのだろう。苦虫を噛み潰したような物言いに、思わずこちらも苦笑いがこぼれそうになる。



「・・・・・・なんでそこで赤井さんなんですか?」
「なまえが難しい顔して悩んでる時は、大概あいつが絡んでる気がする」


まぁたしかにそれはそうなのかもしれないが、今回は違う。



はたしてなんと答えるべきなのか。



降谷さんに嘘をつくのは絶対に嫌だ。かといって、黒羽くんがキッドだと伝えるのも間違っている気がするし・・・。



どう伝えるべきか、頭の中でぐるぐると思考をめぐらせる。

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