▽ 2-5
Another side(2/2)
このまま別れるのが少し寂しく感じる気持ちがあり、彼女に名前を尋ねると少し畏まりながらも教えてくれた。
そんなやりとりをしていると、彼女の携帯が鳴る。
隣で電話に出るなまえちゃん。
僅かに電話から漏れ聞こえる声は、たぶん男のもの。
まぁ可愛いしいい子そうだし彼氏くらいいるか。
「彼氏?迎えに来るの?」
「あ、うん」
彼女が電話を切ったのを確認したあと、そう尋ねると小さく頷くなまえちゃん。
「なら俺もそろそろ帰ろうかな。これありがとね」
彼氏が迎えに来るなら、俺がここにいるのはあまりよくないだろう。そう思い彼女にお礼を伝え、立ち上がる。
ひらひらと手を振りながら出口へと向かう。
別れ際の彼女の表情が、何故かとても心配そうに見えてこの程度の傷でそこまで心配するか?と不思議に思いつつも笑顔を作る。
「またね、悠希ちゃん」
また、なんてことがあるのかはわからないが、もう一度会えたらいいなと思ったのは嘘じゃない。
「あんまり怪我とかしないようにね!無理しないでね!」
最後に俺にかけられた言葉に、思わず自分でもどきりとした。
無理しないでね。
今日の怪我を見ればたしかに普通の大人は心配するのかもしれない。もしかしたら事故や喧嘩に巻き込まれたと思ったのかも。
でも彼女の言葉は、そんな感じではなかった。
まるでキッドとしての自分を見透かされてるような気がして、なんとも言えない気分になる。
こんな気持ちで彼女に言葉をかけることもできないので、聞こえないふりをしてそのまま手を振りながら公園を出た。
しばらく歩いたところで、自動販売機の陰に隠れ小さくため息をはいた。
「・・・・・・知ってるわけないのにな。・・・・・・まぁでも、誰かにあんな風に心配されるのも悪くないか」
汚れひとつないハンカチを、見ず知らずの俺なんかのために躊躇なく汚してしまうような優しい人。
彼女の瞳からは、心配の気持ちがひしひしと伝わってきて悪い気はしなかった。
「・・・・・・にしても、あんな近距離であの甘い匂いは反則だろ・・・」
あの距離感と匂いを思い出し、思わず頭を抱える。
そのとき、ぱたぱたと走る人とすれ違う。
自動販売機の陰にいた俺には気付かず、公園へと入っていったその男性。顔は見えなかったが、すらりとした長身と金髪だけは見えた。
「・・・・・・あれが彼氏かな?」
すれ違った男性と一緒に歩くなまえちゃんの姿を想像すると、何故か胸がちくりといたんだ気がした。
いや、気の所為だろ。疲れてるせいだな。
自分の中で結論付けて、俺は公園に背を向けて歩き出した。
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