▽ 2-4
Another side(1/2)
予告通り、大海の奇跡を盗み出したまではよかったがサイドカーに名探偵が乗っていたのは予想外だった。
しかもあれだけ派手にクラッシュさせられ爆発までしてしまうと、時間とともに警察だって集まってくる。
爆発でところどころ怪我をした身体を引きずりながら、なんとか街から少し離れた公園へとたどり着いた時には日付が変わろうとしていた。
「・・・っ、たく。あのガキ手加減ってもんを知らねーのかよ」
ベンチに座り一息付きながら、あの手加減を知らない小さな名探偵への愚痴が思わずこぼれた。
すると、隣から息を飲むような声が聞こえた。
まずい、人がいたか。
一瞬ひやりとしたものの、今はキッドの姿でもないし変に焦った素振りを見せる方が怪しいだろう。
心の中で、ふぅと小さく息を整え隣にいた女性へと声をかけた。
*
その女性は、毎日公園に住み着いている野良猫に餌をやりに来ているらしい。
彼女の座りに腰かけ、ベンチの後ろを覗くとこちらを警戒しながら餌を食べる白と茶色の猫がいた。
ぼーっとその猫を見つめていると、隣に座る彼女がなにやら鞄をごそごそを探り何かをこちらに差し出してきた。
「・・・・・・あの、よかったら絆創膏つかってください」
その手には絆創膏が一枚。
そういえば俺、顔も怪我してたんだっけ。頬がヒリヒリと痛むことを思い出し、指で触れるとピリッとした痛みが走る。
「あんまり触ったらバイ菌入ったらいけないし駄目だよ!ちょっと待ってて」
ぴしゃりとした物言いで、傷を触っていた手を彼女に掴まれる。
彼女は鞄からハンカチを取り出すと近くの蛇口へと走っていった。
戻ってくると、当たり前のようにその綺麗なハンカチで俺の顔の傷の汚れを拭おうとする。
「っ!ハンカチ汚れるしいいよ!これくらいほっといても治るし!」
思わずその手を掴んで止めるも、彼女は引き下がらなかった。
「ハンカチは汚れるものだし、そんなの気にしなくていいの!絆創膏も貼っちゃうからじっとしてて」
「・・・・・・っ、はい・・・」
その勢いに負けて、彼女のされるがままになる俺。
丁寧に汚れを拭って絆創膏を貼ってくれる彼女。俺の方が背が高いので、自然と彼女が俺を見上げるような形になる。
暗くてよく見えなかったが、さすがにこの距離だと表情まではっきりとわかる。
彼女が動く度に、僅かに髪の毛から香る少し甘い香りに思わず頬が赤くなりそうになる。
やべぇ、近付きすぎだろ。
心の声が漏れないようにぐっと堪える。
「はい、できた。他にも怪我してるみたいだし、あんまりひどいようなら病院とか・・・」
「ありがと。これくらい大丈夫!お姉さん心配しすぎだよ」
心配そうに俺を見る彼女に、なんてことのないように笑顔で礼を伝える。
すると、先程までの勢いがしゅんと消えたようにさっと身を引く彼女。その仕草がなんだか先程の猫のようで思わず笑ってしまう。
「・・・ぷっ、さっきまであんなに近付いてきてたのに、俺から近付いたら逃げるんだ」
「っ!それは・・・!」
恥ずかしそうに視線を逸らす彼女は、恐らく俺より年上のはずなのに何故か可愛らしく思えた。
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