▽ 2-3
「誰が何を無理するんだ?」
「・・・・・・っ!!」
返ってくることのないないはずの独り言に、後ろから返事が返ってきて心臓がひゅんっと縮まったような気がした。
「びっくりした・・・。後ろから急に声かけられたらめちゃくちゃ驚きます・・・」
「縮こまってぶつぶつ言ってる怪しい奴がいたからついな。もう餌やりは終わったのか?」
座り込んでいる私の頭に両腕を乗せながら、手元の空き皿を覗き込んでくる降谷さん。
「終わったからもう帰ろうかなって思ってたところです」
「そっか。なら帰るぞ」
当たり前のように差し出された左手を掴みながら立ち上がる。
そのまま繋がれた手。当たり前のようにこうして手を繋いでくれることをとても嬉しく思う。
人の多い場所や昼間は、そういう訳にもいかないのでこういうことはしんと静まり返ったこの時間の特権だ。
自然と上がる口角。幸せだなぁと思っていると、隣からいつもより少し低い声が聞こえた。
「・・・・・・ところで、前にも言ったよな?遅くなる時は連絡しろって」
「・・・うっ、はい・・・」
「今何時か分かるか?」
「えっと・・・、十二時すぎかな?」
ジト目でこちらを見ている降谷さんに、わざとらしくそう言うと繋がれていない右手でぱしんと軽く頭をはたかれる。
「心配だから連絡はしてくれ。約束だ」
その声色からひしひしと心配してくれた気持ちが伝わってくる。
「・・・・・・うん、ごめんなさい。次から気をつけるね」
自然と私の声も小さくなる。
「分かってくれたならいい。あの猫元気だったのか?」
しゅんとした私の頭をそのまま右手で撫でてくれる。
気まずい時間が続かないように、こうして違う話題を振ってくれるのも彼の優しさのひとつだ。
あの猫のお腹が大きくなっていたことや、帰ったら何を食べるか。そんな他愛もない話をしながら、私達は帰路に着くのだった。
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