▽ 9-6
Another side
その日、なまえを見つけたのは偶然だった。
予報では降水確率は低かったのに、パラパラと降り出した雨粒が地面を濡らす。
本降りになる前にコンビニで傘を買い、外に出ると雨足は強くなっていた。
生憎車ではなかったので、足早に帰路に着く途中、道行く人々が何かを避けて歩いていることに気付く。
それが座り込んだ一人の女性だと気付くのに時間はかからなかった。
座り込んだその女性は俯いていて表情は見えない。けれどあと少しの距離まで近付くと、その女性が見知った顔であることに気付いた。
それに気付いた俺は、慌てて彼女に近付き持っていた傘に彼女を入れた。
「なまえ?!こんな所で何してるんだ?!」
見るからにボロボロの彼女の姿に珍しく自身の声色が焦りを帯びた。
俺の声を聞いて顔を上げたなまえ。
涙なのか、雨粒なのか。
頬を伝う雫。彼女にしては珍しいハイヒールのストラップは片足だけ外れていた。
「・・・・・・っ・・・・・・、赤井さん・・・っ・・・」
震える声で俺の名前を呼んだなまえ。
沖矢昴の姿でいる時に、なまえがそう呼ぶことは今まで数えるくらいしかなかった。
必要以上に周りを気にする彼女だ。外でそう呼ぶなんて、普段ではありえない。
それほどまでに今の彼女は取り乱してしているということ。
びしょ濡れになったなまえの体に、自身が着ていた上着をかける。
「とりあえず家まで送る。降谷君に連絡を・・・・・・っ」
両肩を支えながら立ち上がらせ、そう言いかけた時、なまえの目がカッと開きふるふると首を振りながら震える手で俺の服の胸元を掴んできた。
「・・・っ!零くんには連絡しないで!・・・・・・今は会いたくない・・・・・・っ」
最後の方は聞こえるかどうかも怪しいくらいの小さな声。
一体彼女に何があったというのだろうか。
降谷君と喧嘩でもして飛び出してきたなら会いたくないというのも理解出来る。
けれどあの男がこんな状態のなまえを探しもせずに放っておくとは考えられなかった。
となれば今の彼女の状態を彼は知らないということになる。
それでも彼に会いたくないという理由はなんなんだろうか。
考えても分からないその理由。
「・・・・・・分かった。とりあえず俺の家に来い。降谷君にも今は何も連絡しないから安心しろ」
宥めるようにそう言うとなまえの手の震えが少しだけマシになる。
そのまま彼女の肩を支えながら、道路を走るタクシーを止めそのまま車に乗り込む。
運転手に告げた場所は、工藤邸ではなく別名義で借りている自身のマンション。
俺以外立ち入ることのないその場所はFBIでも限られたメンバーしかしらない、いわば隠れ家のような場所だった。
降谷君には頑なに会いたくないという彼女。
降谷君の性格を考えれば、なまえが夜中になっても家に帰らない、ましてや連絡がつかないとなると工藤邸にやってくる可能性だってある。
だったら彼の知らない場所の方がいい。
そう思うくらいに、今のなまえはボロボロだった。
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