▽ 9-4
Another side
「んんー、美味しいです、これ!」
運ばれてくる料理の一つ一つに驚き、一口食べては顔を綻ばせる。
そんな彼女の姿に自然と自分も笑顔になった。
素直な子なんだろう。
最初は不信感や猜疑心、警戒心でいっぱいだった彼女。
バーボンの名前を出せば、分かりやすく表情が鋭くなった。
あのビルでの様子から彼女が組織について多かれ少なかれ、何かを知っていることは分かっていた。
だからといってどうこうしようとは思っていない。
ただ彼女という人間がもっと知りたくなっただけ。
「貴女はバーボンのこと、どこまで知ってるの?」
ワイングラスに注がれた真っ赤なワインを口に運びながら尋ねた。
楽しげに笑っていた彼女の表情が一気に真剣味を帯びる。
「質問が悪かったわね。・・・・・・貴女はバーボンがどんな人間で、どんな事をしていてもそれでもそばに居たいの?」
明るい場所にいる彼女。
できるなら組織に関わって欲しくはなかった。そんな気持ちが自分のどこかにあったのかもしれない。
けれどもし、彼女がバーボンの全てを理解しそれでも愛しているというならば・・・・・・。
「・・・・・・質問の意味を理解しかねます。でも一つだけ言えるのは、彼が何を選択していても私の今の気持ちは変わらないと思います」
凛とした口調でそう言いきった彼女。
バーボンがこの子を大切に思う気持ちが少しだけわかった気がした。
だったら尚更・・・・・・。
傷付けることになる。
そう分かっていても、この純粋で綺麗な心を持つ彼女を黒い闇で汚したくはないと思ってしまった。
これは私の勝手なエゴ。
それを乗り越えるかは彼女次第だ。
「・・・・・・そう、残念ね」
私は膝の上に置いていたナプキンで軽く口を拭くと、そのままそっと立ち上がった。
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