続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-8



Another side


ツインタワーを訪れた二日後。

俺はなまえと共に警視庁にいた。


そこに呼ばれていたのは俺達だけではなく、毛利さんを始めとしたあの日あそこにいた人達だった。


「君達に来てもらったのは他でもない、実は、ツインタワービルのスイートルームで刺殺体が発見された」

目暮警部が説明しながら、隣にいた千葉刑事がホワイトボードに被害者の写真を貼る。


「あ!この人・・・!!」
「西多摩市の大木岩松氏!」


皆の声に目暮警部が頷く。

「彼が常磐美緒さんに宿泊を頼んだ時、君達がそばにいたと聞いてな。千葉君!」


そういえばあの日、なまえと話している後でそんな話をしていたな。

彼らのやり取りを思い返しながら、被害者の死亡推定時刻を述べる千葉刑事の言葉に耳を傾ける。



「被害者の手には二つに割られたおちょこが握られていました」
「おちょこ?」

毛利さんが尋ねると、白鳥警部が「これです」と箱からビニール袋に入ったおちょこを取り出してみせる。


ダイイングメッセージとして考えられているそのおちょこ。


そしてホワイトボードには、更に五人の写真が貼られる。


そこにはあの日あの場にいた俺達以外の五人の写真があった。


「現場がまだオープンされていないビルということもあるので、この五人の中の誰かが犯人だと考えています」


白鳥警部が言う。その言葉に顔を顰めたのは毛利さんだ。


それも無理はない。その五人の中には彼の後輩だという常磐美緒さんも含まれていた。



おちょこと五人を結びつけていく話をしている横であの日のことを思い返す。


隣でコナン君が机の上に置かれた操作資料に手を伸ばした。


彼が捲った操作資料に挟まっていた一枚の写真。それは犯行現場の写真だった。


胸を刺されてガウンが真っ赤に染まった大木氏が、クローゼットにもたれるようにして倒れている。


写真に写っているクローゼットの扉には不自然な血の跡。クローゼットの上の方には全く血は着いておらず、まるでその部分だけ切り取られたかのようだった。


毛利さん達の推理に加わらず黙ったままの俺を心配したのか、反対隣に座っていたなまえがこちらを気にしていることに気付く。


その瞬間、俺はコナン君の手にあったその写真を操作資料の間に突っ込んだ。


「・・・っ?」

コナン君が驚いたようにこちらを見る。


「子供が見るものじゃないよ」
「う、うん。ごめんなさい」

そんな事を言われるとは思っていなかったのか、彼はぱちぱちと目を瞬きながら今度は割れたおちょこに視線を向けた。



なまえにあの写真は見せたくなかった。


ちらりとでも彼女の視界にあれが映ってしまえば、死体なんて見慣れていない彼女はショックを受けるかもしれない。


そんなことはあってほしくない。

我ながら過保護になったなと思う。



「安室さん?」
「大丈夫ですよ」

俺の顔を見ながら首を傾げたなまえに、いつもと変わらない顔を向ける。


その言葉に安心したのか、なまえの意識が目暮警部の話に戻る。


それと入れ替わりにコナン君が俺の服を軽く引っ張った。


「どうしたんだい?」

背中を屈め、彼の近くに耳を寄せる。


「おちょこから連想されるのってお酒だよね?もしかして奴らが・・・・・」
「それはない。あの日何故あそこにジンがいたのかは分からないが、こんなストレートなメッセージを残させるほどあいつらは馬鹿じゃない」
「じゃあどうして・・・」


再び腕を組んで考えこむコナン君。


彼の言う通り、おちょこからは確かに酒が連想される。けれど奴らがこんなダイイングメッセージを残させるはずがない。


そもそもこれは本当にダイイングメッセージなんだろうか。


犯人が残した可能性だって考えられる。


見え隠れする組織の存在が嫌でもこの前のベルモットの言葉を思い出させた。






「最近変わったことはないか?」

帰りの車の中。なまえを家まで送り届ける途中、俺は二人きりの車内で彼女に尋ねた。


「大木さんの事件のこと?」
「いや、それ以外でもだ」
「特に何もないかな」

右手を口元にあてながら考える彼女。その仕草は何かを隠しているようには見えない。


「今回の事件、何か嫌な感じがするんだ」
「ジンのポルシェ?」
「・・・・・あの時も思ったけど、やっぱり知ってるんだな」


あの時はさらりと流してしまったが、彼女はあの男の愛車を当然のごとく知っているのだ。


問い詰めるつもりはないが、その知識が原因で余計なことに巻き込まれないかだけが心配になる。


「・・・あ、うん。組織のこと詳しくは知らないんだけど、少しだけは・・・」
「なまえのことは信じてるからそんな顔しないでくれ」

話していなかったことを申し訳なく思ったのか、僅かに眉を下げ辛そうな顔をした彼女の頭を撫でる。


彼女のことは少しも疑っていない。


ただ不安なのは、自分の近しい誰かの為となると突っ走ってしまう彼女の性格だ。


「ただ一人で無茶はしないでくれ。今回は特にだ」

キッドのひまわりの時とは違う。

彼はなまえを傷付けることはないと言い切れた。


けれど組織絡みとなれば違う。
奴らは簡単に彼女を傷付けるだろう。


「約束するよ」
「絶対だからな」

いつもに増して真剣な自身の声。なまえも真剣な目をして頷いてくれた。

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