続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-7



翌日、早朝から仕事に行った零くんを見送り少し早いが私も用意を始める。


あれから零くんがジンの車について触れることはなくて、こちらからも聞く雰囲気ではなかった。


組織絡みになると私も迂闊に喋ることはできないし、零くんも聞いてくることはない。


それでもモヤモヤは消えなくて、その日は頭の片隅でずっとそれを考えていた。


いつも通り仕事を終え、喫茶店を出ると少しだけ陽が傾き始めていた。


「蘭ちゃん?」

帰り道を歩いていると、少し前を歩く蘭ちゃんの背中を見つけ声をかける。


「なまえさん!」

私の顔を見ると、ぱぁっと笑顔になる彼女。振り返った時の表情は、どこか少し悩んでいるように見えた。


「なまえさん、今ってお時間ありますか?」
「うん、大丈夫だよ。どうかしたの?」
「少しだけ話を聞いて貰えませんか?」


二人でやってきたのは近くにあるカフェ。


カフェオレと紅茶を頼んで待っている間に彼女は口を開いた。


「実はさっき光彦君と歩美ちゃんとそれぞれ会っていたんです」


二人からそれぞれ恋愛相談をされたという彼女。最近の小学生はすごいなぁなんて思いながらその話を聞く。


二人の女の子が好きだという光彦君と、コナン君のことが好きだがコナン君は蘭ちゃんのことが好きだと言う歩美ちゃん。


「コナン君にはっきり言ってあげてって言われたんですけど、そんなの言えるわけないし・・・」

はぁと小さくため息をついた蘭ちゃん。


もちろんコナン君が好きなのは蘭ちゃんなわけで、それを知っている私としてはなんと答えるべきか悩んでしまう。


「蘭ちゃんは今のままでいいんじゃないかな?変に嘘ついたりせずに、ありのままでいいと思う」

結局ふんわりとしたアドバイスしかできなくて、うまい言葉が思いつかない。


「蘭ちゃんは新一君のことが好きなんだよね?その気持ちだけ今は大切にしてたらいいと思う」
「・・・・・っ、別にあいつのことは!」
「素直が一番だよ。私も最近学んだんだ」


変に気持ちを隠すより、素直に伝えるのが一番いい。大人になると人は臆病になり、本当の気持ちを隠してしまう。


素直にぶつかれるのは若さゆえの特権でもあるだろう。


「なまえさんと安室さんって喧嘩することとかあるんですか?」

カフェオレにささったストローをくるくると回しながら蘭ちゃんが首を傾げた。


「喧嘩っていうのかは分からないけど、すれ違っちゃうこともあったよ」
「なんだか意外です。二人とも大人だし、いつも仲良いイメージでした」
「そんなことないよ。この前も些細なことで気まずくなっちゃったし」


記憶をなくしてしまったあの日のことを思い返す。あれも今思えば小さなボタンの掛け違いが原因だ。


「でも二人を見てると素敵だなっていつも思ってるんですよ。なまえさんが記憶を失くした時も、安室さんとても心配してましたし」
「大事にしてもらってるとは自分でも思うかな。私なんかにはもったいないくらいにね」
「そんな事ないですよ!こんなこと言ったら失礼なのかもしれないけど、私なまえさんと出会ってからの安室さんの方が素敵だと思います!」


蘭ちゃんは勢いよくそう言いきった。

その勢いに少しだけ驚き目を見開く。


「それまでの安室さんっていつもニコニコしてて、完璧なイメージだったんです。でもなまえさんと一緒にいるようになってからは、どこか柔らかい雰囲気な気がして素敵だなって思います」

にっこりと笑った蘭ちゃんにつられて私の口角も上がる。


周りの人の目にそう映っているのなら嬉しい。


他愛もない話をしていると、いつの間にか陽がおちて辺りが暗くなってくる。



「そろそろ晩御飯の用意しなくちゃ。付き合わせてしまってすいません」
「ううん、私の方こそ遅くまでありがとう。久しぶりにゆっくり話して楽しかった」


会計を済ませて喫茶店を出る。出会った頃よりは明るい表情になった蘭ちゃんの姿を見てほっと一息つく。



彼女の背中を見送りながら、私も帰路に着いた。

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