続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 8-6



沢口さんの案内で、私達は展望エレベーターへと乗る。

A棟の外壁に添って昇っていく展望エレベーターはガラス張りになっていて、目の前に見えていた街並みがどんどん小さくなっていく。


「このエレベーター、七十五階まで直通なんですか?」
「はい。これはVIP専用のエレベーターですから、行きたい階に直通です!エレベーターの外から止めることができるのは、六十六階のコンサートホールだけになります」

蘭ちゃんと沢口さんの会話を聞きながら、私は零くんの背中にそっと隠れ目を瞑った。


「なまえ?」

人前で引っ付くことなんて普段ない私の行動に、零くんが不思議そうに声をかけてくる。


「高い所苦手なの。ちょっとだけ壁になっててほしい」
「そういうことか」


二人だけにしか聞こえないくらい小さな声での会話。零くんは体勢を変えて、私から外が見えないように立ってくれる。


その隣で毛利さんも目を瞑り必死にこの高さに耐えていた。そういえば彼も高所恐怖症だったっけ。


彼の気持ちが痛いくらいにわかる私は、大人しく零くんの背中に隠れエレベーターが止まるのを待った。


やがてエレベーターは七十五階へと到着し扉が開く。

沢口さんに続いて我先にとエレベーターから降りた毛利さんはホッと額の汗を拭っていた。


「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」

私も零くんに背中を支えられながらエレベーターを降り、ふぅと小さく息を吐く。

やっぱりこういうのは苦手かも。

快斗くんとハングライダーで飛んだ時はそれどころじゃなかったから平気だったが、こういう展望台系はやはり得意ではないらしい。


エレベーターを降りるとそこは広々としたホールになっていて、大勢の人がテーブルや舞台の設置の準備に追われていた。


「ここはただ今、オープンパーティの準備をしておりますので、多少立て込んでおります」

沢口さんの説明を受けながらホールを進んでいくと、舞台の前で三人の男性と話をしていた赤いスーツの女性が振り返った。


「毛利先輩!」
「常磐君、しばらく」

毛利さんに歩み寄った彼女は、笑顔で握手を交わしている。

真っ赤な口紅と真っ赤なスーツ。すらりとした彼女はたしかに綺麗で、これは蘭ちゃんが心配するのも無理はない。


「どうも、娘の蘭です!母がくれぐれもよろしくとのことでした」
「おい、蘭!」

さりげなく常磐さんを牽制する蘭ちゃん。それに顔を顰めた毛利さんだったが、彼女はそんなこと気にもとめず私達のことを紹介してくれる。


それに習って常磐さんも後ろに立っていた男性達を私たちに紹介してくれた。


「私の絵の師匠で日本画家の如月峰水先生です」

白髪を後ろで束ねた着物姿の老人が、不機嫌そうに会釈をする。


「如月峰水って、あの富士山の絵で有名な・・・?」

毛利さんが尋ねると、いきなり赤ら顔の男が割って入ってきて毛利さんの胸を指さした。


「俺もあんたのこと知ってるぞ!<居眠り小五郎>とかいう探偵だろ?」
「<眠りの小五郎>です!」

ムッとしながら答える毛利さんの隣で私はその男性から香る酒の匂いに、顔を背けてしまう。


「西多摩市、市議会議員の大木岩松先生です!このビルを建設する際には、色々とお骨折りいただきました」

威圧感を誇示するように胸を張って見せたその男性。漂う酒の香りとその態度に、思わず顔を顰めてしまう。

怪訝な目で彼を見ていたせいだろうか、視線が交わると彼はにやりと笑う。


こちらに一歩近づこうとした気がしたが、零くんが私を背に庇うように進み出たおかげで叶うことはなかった。


「そしてこちらは、このビルの設計をしてくださった建築家の風間英彦さんです」

ノーネクタイのスーツの胸元にハンカチをしのばせた男性が頭を下げる。


お互いの紹介を終えると、子供達が窓の方を見ながらそちらへと駆けていく。


「早く早く!見て!」

歩美ちゃんが窓の外を指さす。


そこに広がるのは富士山だった。


ホールの両側は巨大なガラス窓が設けられていて、そこから富士山が一望できるようだ。


反対側の窓から見えるのは、ドームの屋根のようなもの。

どうやら反対側のB棟は商業棟のようで、下は店舗、上はホテルで、屋上にはプールがあるらしい。


なんとまぁ贅沢な建物だ。


窓から見える富士山を眺めていると、その後ろでは何やら常磐さんと如月先生が言い争いのようなものを繰り広げたかと思うと、大木さんが常磐さんに迫ったりとなんとも色々ありそうなあの人達。


巻き込まれないようにそっとその場から離れ、ベンチに腰かける。


「色々人間関係がややこしそうだな」

零くんが隣に腰を下ろしながら、はぁとため息をついた。


「そうだね、それにしてもあの大木さんって人酔っ払いすぎじゃない?」
「だな。なまえに近付こうとしただけで腹が立つ」


ぶすっとそう言った彼の顔は、安室さんというよりは零くんで、それが可愛くて小さく笑みがこぼれた。


そのとき、展望エレベーターの扉が開き二人の男性社員が談笑しながら降りてきた。


「いやぁ、今どきあんな車を見るなんてなぁ・・・・・・。なんて言ったっけ?」
「ポルシェ356Aだよ」

その車名を聞いた瞬間、隣にいた零くんの表情が一気に鋭さを帯びた。


それと同時にコナン君が彼らの元に駆け寄る。


「その車どこで見たの?!色は?!」
「え?あぁ、このビルの前に停まっていたんだよ。色は黒だよ」


それを聞いたコナン君は、社員の横を通り抜けエレベーターに飛び乗った。


不安になった私は、零くんの顔を見た。


「大丈夫だ。俺は何も関わってない」

私を安心させるように、ぽんぽんと頭を撫でる彼。


黒のポルシェ356A。


それはジンの車。


なぜ彼がここに・・・?

疑問は深まるばかりだった。

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