▽ 8-5
原さんに言われるがまま、阿笠博士と歩美ちゃんが座席に腰かける。
「よろしいですか?いきますよ」
彼がスイッチを操作すると、座席の上から宇宙飛行士のヘルメットのようなものが下りてきて彼らの頭をすっぽりと覆う。
すごいなぁとその様子を見ていると、ショールームを見ていた零くんが隣にやって来た。
「興味あるのか?十年後の自分の顔」
「うーん、なくはないけど老けた顔は見たくないかも。安室さんは?私や自分の十年後の顔見てみたい?」
十年後といえば、私はもう三十を余裕で超えている。興味はあるが見たいかと言われると頭を抱えてしまう。
「僕は写真が苦手なので。それになまえの十年後はこの目で確認するから、今見る必要はないさ」
なんてことないように言った彼の言葉に、胸が小さく跳ねるのが分かった。
それは十年後も変わらず隣に居てくれるということ。
「顔がニヤけてるぞ」
そんな私を見て耳元で呟かれた言葉。嬉しさを隠せない私は、彼の服の袖を小さく掴んだ。
「次はコナンと灰原の番だぞ!」
元太君の声ではっと意識が戻る。
十年後のコナン君と哀ちゃん。
それはまずいんじゃないか。十年後の彼らは、工藤新一と宮野志保の顔になってしまう。
案の定、「パス」と言った二人だったが強引に椅子に座らせられる。
ここで私が止めに入るのもおかしいし、どうするべきか、わたわたと考えているうちにパシャリとカメラの音がした。
するとプリンターから警告音が鳴り、ERRORという文字が点滅し始める。
「エラー?おかしいな」
原さんが画面をのぞき込みながら不思議そうに首を傾げる。
その隣であからさまにホッとした顔のコナン君。
「十年後は、二人ともこの世にいないってことかもね」
哀ちゃんが小さく呟いた言葉に、コナン君の目がぱっと見開かれる。
何かあったんだろうか。
いつもより影のある哀ちゃんの表情が気にかかった。
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