▽ 8-1
※ ここから先は天国へのカウントダウンのネタバレ、内容の一部改変を含みます。話の時系列やキャラ同士の関係など大幅に操作しております。苦手な方はご注意ください。
Another side
とある任務の帰り道。隣に座る女は、変装を解き長い金髪を鬱陶しそうに手で払う。
何かと多い俺とベルモットの組み合わせ。
助手席に彼女がいることにはもう慣れたが、彼女から香る少し甘い薔薇の香りだけは慣れなかった。
車の中にその香りが残るのが嫌で少しだけ運転席の窓を開ける。
「そういえばジンから聞いた?シェリーのこと」
赤信号に引っかかり、車を停めると彼女が不意に話しかけてきた。
「何のことですか?」
あいにく俺とあの男は世間話をするような仲じゃない。
「あの子、今でも姉が残したマンションに健気に連絡してるらしいの。亡くなった姉の留守番電話の数秒のメッセージが聞きたいなんて、まだまだ子供ね」
ジンがそのマンションを見つけたなんて知らずに、とくすりと笑う彼女。
彼女の姉は組織によって消されたと聞いている。
シェリー。
ジンが血眼で探している組織の裏切り者。
「どうしてその話を僕に?」
彼女がこの話を俺にするメリットが分からず尋ねると、彼女は真っ赤な唇を上げ笑う。
「ジンはシェリーはもちろん、関わった人間全てを消すつもりよ」
「それが何か?」
「貴方の大事な子猫ちゃんが関係ないといいわね」
意味ありげな笑みを浮かべる彼女の言葉に、思わず自身の眉が上がるのが分かった。
「・・・・・・誰のことを言ってるのか分かりませんね」
「あら、私が気付いてないと思ったの?最近貴方が私の事を車に乗せる時、匂いが残らないように窓を少しだけ開けてることに。女を乗せたと知られたくない相手でもできたのかしら?」
「そのきつい香りが苦手なだけですよ」
「この香りの良さが分からないなんて、貴方もまだまだね」
何をどこまで知ってるいるのか分からないベルモット。
平然を装いながら言葉を返しているが、内心では心臓が嫌な音を立てていた。
「そういえばあの喫茶店の常連の女の子、随分と仲がいいみたいね」
やはりそうか。
カマをかけているのかとも思ったが、彼女の表情がそうでないことを物語っていた。
「有難いことに女性のお客様は多いので、誰のことか分からないですね」
「ふふっ、そこまで言うならそういう事にしておこうかしら」
なまえの存在を馬鹿正直に認めるわけにもいかないので、言葉を濁す。
そんな会話をしているうちに彼女の泊まるホテルへと到着する。
エントランス近くに車を停めると、彼女はポケットに入れていたサングラスをかけた。
「私との約束、忘れないでね」
車を降りながら言ったその言葉。
彼女の言う約束。
それは江戸川コナンと毛利蘭に手出しはしないこと。
ことある事に彼女はあの二人を何故か気にかけている。
彼女の単独行動は今に始まったことじゃないし、意味深な言葉を残すのも以前からよくあることだった。
今回のシェリーの件もそうだ。
何故このタイミングで俺にその話をしたのか。
もし本当に彼女がなまえの存在を知っているのならば、先程の言葉の意味は何なのか。
なまえがシェリーと関わりがあるのか?
頭の中に浮かぶ疑問達。
彼女がシェリーの正体を知っている可能性はあるが、組織のことに彼女は巻き込みたくない。だからこそ組織絡みのことを彼女に尋ねたことはなかった。
答えなんて出るわけがなくて、そのままベルモットの背中を見送る。
彼女の香りがまだ車内に残っているような気がして、窓を全開にしてなまえの家の方へと車を走らせた。
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