たんぺん | ナノ
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▽ 1-2



ポアロでなまえを見てから1年が過ぎた。あいつを見かけたのはあの日1度きりだった。


あれから姿を見せないことが気にかかったけれど、会いに来てくれたところで何も話してやれない・・・・・・ならいっそ今はまだ会わない方がいい。

全てを終えたとき、説明すればいい。なまえなら分かってくれる。


この頃の俺は、その程度にしか考えていなかった。




この1年で状況は大きく変わった。


ようやく組織を壊滅に追い込むことに成功し、長かった潜入捜査も終わりを迎えた。


これでやっと・・・・・・なまえに会いに行くことができる。


だが潜入捜査が終わったとはいえ、山のように積まれた書類の片付けや報告書の作成。組織の下っ端連中の捜索。


次から次へと増えていく仕事のせいで、なかなかなまえに会いに行く時間が取れずにいた。


(あと少しだ・・・・・・)


早く会いたいと思う気持ちを抑え、黙々と仕事に取り組む。


「・・・・・・終わった」


寝る間も惜しんで、書類達と向き合うこと数日。やっと粗方の処理が終わり一息つく。


(今日の夜にでも会いに行こう)



ようやく会える・・・・・・。




逸る気持ちを抑えつつ、なまえが住んでいる隣町に向かった。ここに来るのは何年ぶりだろうか・・・・・・。なまえと過ごした日々を思い出しながら車を走らせる。


(たしか今は実家にいるんだったな)


悪いとは思いつつも、事前に調べた情報を元になまえの実家に向かう。


住宅地にこの車で入るわけにもいかず、近くの駐車場に車を止めて歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入る。


(・・・・・・あれは・・・)


「なまえ・・・・・・」


小さく漏れた俺の声に、あいつが気付くことはなかった。


ずっと会いたいと願っていたなまえの隣には、見たことのない男の姿があった。


「疲れてない?」
「うん、大丈夫だよ」
「式まであと少しだし、体調崩したりしないようにしろよ?」
「私より・・・・さんの方が仕事もあって大変でしょ?いつも付き合ってくれてありがとう」
「俺はなまえより丈夫だから平気だよ」


2人の楽しげな会話が聞こえてくる。なまえは隣の男を見上げながら、穏やかに微笑んでいる。


その表情を見た瞬間、自分が取り返しのつかないことをしてしまった事に気付く。


(・・・・・・・・・遅かったのか・・・)


なまえなら待っていてくれる。


あんな一方的な手紙1枚で待っていてくれるなんて、俺の驕りでしかなかった。


どれくらいの時間その場に立ち尽くしていたんだろう。

2人の姿が見えなくなったあとも、俺の足は地面に張りついたようにその場から動くことはなかった。


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