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▽ 1-1



※ あの時伝えておけば。の降谷sideのお話になります。


「私は零の髪や瞳の色が好きだよ」

まだ大人とは呼べない年齢だったあの頃。俺は自分の容姿が好きではなかった。

周りとは違う。ただそれだけのことで、好奇の目にさらされる。さすがに子供の頃のように虐められることはなくなったが、決してそれは気分のいいものではなかった。


そんな中で、なまえの言葉は俺にとって特別だった。

同情でも、媚びているわけでもない。そんななまえの言葉は自分の中にすとんと落ちてきた。


「零の髪はキラキラしてるね」

そう言いながら髪を撫でる手が好きだった。


「おかえりなさい」

仕事が忙しくて会えない日が続いても、いつも笑って迎えてくれる。


「ずっと一緒にいようね」

俺だってずっと一緒にいたいと思ってた。


決して素直に愛を語るような性格じゃなかった俺は、真っ直ぐに気持ちをぶつけてくれるなまえにいつも甘えてばかりだった。


言わなくても分かってくれている。

いつも俺を待ってくれている。

ああ、最後に気持ちを伝えたのはいつだったんだろう。こんな事になるなら、ちゃんと伝えておくべきだった・・・。





組織への潜入が正式に決まった日。

たった一言の置き手紙だけを残して、俺はなまえの前から姿を消した。


このまま付き合い続ければ、いつなまえを危険に巻き込んでしまうかわからない。大切な存在だったからこそ、この件が片付くまではそばに居るわけにはいかなかった。


たとえそれが何年かかったとしてもなまえは待っていてくれる、勝手に自惚れていたんだ。


会えなくても、話すことができなくても、なまえのことを忘れた日はなかった。色々な人間を演じているせいで、ふと自分が誰なのか分からなくなったときも、なまえのことを思い出せば 降谷零 に戻れた。


全てはこの国の為、この国で生きる人々の為。降谷零として自分の信念を全うするため、俺は必死だった。


自分のことしか考えていなかった俺は、残されたなまえの気持ちなんて理解しようともしていなかった。




あの日もそうだった。


買い出しを終えて、ポアロに戻るとよく店にくる女子高生達の明るい声に迎えられる。


彼女達に笑顔を向けようと顔を上げたとき、その横にいる女性の姿が目に入り思わず息をのんだ。


(なんでここにいるんだ)


最後に見たときより少し大人びた彼女は、俺と同じようにこちらを見て固まっていた。


(・・・・・・なまえ・・・)


見間違うわけがない。ずっと会いたいと願っていたあいつが目の前にいる。思わず声をかけそうになったが、「安室さん?」と呼ぶ女子高生達の声で我に返る。そうだ、今の俺は安室透だ。


(・・・・・・声をかけるなんてできるわけが無い)


ここで話しかけて、安室透と彼女の間に繋がりができてしまったら・・・・・・。今までなまえを、危険に巻き込まないようにと遠ざけてきたことが、全て水の泡になるかもしれない。


すぐに笑顔を作ると、なまえから目を逸らし女子高生達に話しかける。


(そんな顔をしないでくれ・・・・・・)


なまえから向けられる視線に気付かないふりをしながら仕事を続ける。梓さんや女子高生達と話していると、泣きそうな顔をしたなまえが視界に入る。


(最低だな、俺は・・・・・・)

なまえの傷付いた表情を見て心苦しく思うと同時に、どこか安心している自分がいた。


そんな表情を向けてくれるということは、まだなまえの心に俺はいるんだろう・・・・・・と。

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