▽ 1-2
その後三人で他愛もない話をしていると、いつの間にか外の景色が橙色を帯びてくる。
「あ、もうこんな時間!お父さん達のご飯の用意しなきゃ」
「私もそろそろ帰って課題やらなきゃ!なまえさんも明日仕事だよね?」
「うん、私もそろそろ帰ろうかな」
そんな会話をしながら荷物をまとめていると、私達の席に安室さんがやってくる。
「もうお帰りですか?」
いつもの笑顔で尋ねてくる彼。
「はい!ご馳走様でした」
「安室さん、今日もモテモテでしたね〜」
「こら、園子!」
「あはは、そんなことないですよ」
そう言って笑う彼はやっぱり今日もかっこよくて思わず見惚れてしまう。
性格も見た目も非の打ち所のない彼。
そんな人が私の彼氏だなんて未だに夢なんじゃないかと思う。
こんな素敵な人と付き合えてるだけで幸せなのに、ヤキモチだなんてとんでもないよね・・・。
「なまえさん?聞いてますか?」
「・・・っ!ごめんなさい、なんて言いましたか?」
いつの間にか蘭ちゃん達との会話を終わらせた安室さんが私の前に立ち、そっと顔を覗き込んでいた。
「あと1時間くらいで仕事が終わるので、もし待っていていただけるなら帰り送りますよ?」
何かと忙しい彼と一緒に過ごすことのできる時間があるのは嬉しい。
けれど仕事終わりで疲れている彼にわざわざ送ってもらうのは申し訳ない。
そんな葛藤が頭の中で繰り広げられる。
「今日はこのまま帰ります。安室さんもたまにはゆっくり休んでください」
大人って嫌だなぁ・・・。蘭ちゃん達には素直が一番って言いながら、自分のことになると余計な感情が邪魔をして本音を隠してしまう。
「そうですか・・・、もう暗くなってきてますが大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。そんなに遅い時間じゃないし大丈夫ですよ」
「じゃあまた連絡しますね」
「はい、残りのお仕事も頑張ってくださいね」
笑顔でそう伝えると、後ろで会話を聞いていた園子ちゃんが私達を冷やかす。
「やっぱり二人はラブラブね!」
「こら!大人をからかわないの!」
「えへへー、ごめんなさーい」
「もう・・・っ!二人ともごめんなさい!なまえさん、今日は聞いてくれてありがとうございました」
ひらひらと手を振りながら店を出ていく園子ちゃん。その後ろを追うように蘭ちゃんも店を出る。
「じゃあ私も失礼します」
「はい、気をつけて帰ってくださいね」
そんな二人を見送ったあと、私もポアロを出て自宅へと向かった。
*
ヤキモチかぁ・・・。
とぼとぼと自宅へと続く帰り道を歩きながら、先程の園子ちゃん達との会話が頭をよぎる。
「なまえさんは安室さんにヤキモチ妬いてほしいとは思わないんですか?」安室さんが私にヤキモチか・・・・・・、ないな。逆なら有り得るけれど、彼が私にヤキモチを妬くなんて想像できない。
そもそもなんで私を選んでくれたのか分からないし。
「どこがよかったんだろ・・・」
思わずそんな独り言がこぼれる。
「何がですか?」
返ってくるとは思っていなかった言葉が背後から聞こえ、びっくりして振り返るとそこには見知った顔があった。
「沖矢さん!!びっくりさせないでくださいよ〜」
「すいません。何度か名前を呼んだのですが気づいてもらえなかったもので」
そう言いながら笑顔を見せるのは沖矢さんだった。
彼とは行きつけのスーパーで出会い、何度か会話をするうちにご近所さんとわかり親しくなったのだ。
「随分と思いつめた表情をしていましたが何かあったんですか?」
自分ではそんなつもりはなかったが、心の機微にさとい彼にはお見通しらしい。
「もし時間があるなら少し話しませんか?」
そう言いながら公園のベンチを指差す沖矢さん。
特にこの後は予定もないし断る理由もない。何より私自身が誰かにこの気持ちを聞いて欲しかったんだろう。
「そうですね、じゃあ少しだけ」
私達は公園のベンチに腰掛けた。
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