▽ 1-1
穏やかな昼下がりの日曜日。
暖かな日差しが差し込む窓際の席に座り、私はカウンターの中でニコニコと愛想を振りまく彼を見つめていた。
「なまえさん、また安室さんのこと見てたでしょ?」
目の前に座る園子ちゃんの声でふと我に返る。
「ごめんごめん、ちゃんと話は聞いてるよ」
「もう!せっかく大人の女の人の意見を聞きたいのに〜」
「まぁまぁ園子、落ち着いて」
「何言ってんの蘭!あんたの旦那のことを相談するために集まったんでしょ!」
「だから旦那じゃないって」
少しずつ声のボリュームが大きくなる園子ちゃんを蘭ちゃんが宥める。
いつも通り仲の良い2人に思わず笑みがこぼれる。
若いって素敵だなぁ・・・・・・、ってなんか私が年寄みたい。そんなことを思いながら紅茶を口に運んだ。
*
仕事も休みで特に予定のなかった私は、園子ちゃんからの誘いでポアロでお茶をすることになりここへとやって来た。
この店で知り合って仲良くなった蘭ちゃんや園子ちゃん。どうやら今日は恋愛相談があるらしい。
「それで相談って?例の探偵の彼と進展があったの?」
「それが・・・・・」
少し顔を曇らせた蘭ちゃんがぽつりぽつりと話を始める。
どうやらその彼は忙しい人らしく、なかなか会うことができずにいるらしい。
「なんか私ばっかり心配してるみたいで・・・」
「だからたまにはガツンとあの推理オタクに言ってやらなきゃダメよ!ね、なまえさん?」
大人になれば忙しくて会えないなんてよくあること。でも高校生の彼女達にとっては、それは重大なことなんだろう。ましてや幼馴染みで毎日会えていた人に突然会えなくなる・・・・・・その気持ちは想像するだけで胸が痛くなる。
「やっぱり会えないのは淋しいし、辛いよね・・・。でもその彼もこまめに連絡くれてるんだよね?」
「はい、電話やメールはしてくれます・・・」
「そんなに忙しい彼が蘭ちゃんには連絡を入れてくれてる。それってちゃんと大切にされてるってことだと思うよ?」
それでもこんな可愛い子にこんな悲しい表情をさせるのは許せないけどね、と付け加えると蘭ちゃんの表情に少し笑顔が戻る。
「それで私が考えたのがヤキモチ大作戦よ!」
「「ヤキモチ大作戦?」」
勢いよくそう言い放った園子ちゃんに、私と蘭ちゃんの声が重なる。
「そうよ!あの推理オタクも蘭がずっと待ってると思うからなかなか会いに来ないのよ。だから他の男の影をチラつかせれば、すぐに会いに来るはずよ!」
「うーん、気持ちを試すみたいな事は逆に拗れたりしないかな?」
思わずそんなことを言ってしまった私に、ぐんっと園子ちゃんが顔を近づける。
「人事じゃないのよ、なまえさん!」
「え?」
「なまえさんは安室さんにヤキモチ妬いてほしいとは思わないの?」
そう言いながら小さく安室さんを指さす彼女。
その指の先へと視線を向けると、何やら楽しげに若い女の人に囲まれて話をする彼の姿が目に入る。
たしかに面白くはない・・・・・・。
ニコニコと笑顔を振りまく彼に少しモヤモヤとした感情を覚えるけれど、さすがにそれを表に出すような年齢ではない。
「あはは、さすがにもうヤキモチって年齢じゃないよ」
「そうよ、園子。なまえさん達は大人なんだし」
「それでも恋する乙女に変わりはないでしょ?!」
蘭ちゃんや園子ちゃんのように、キラキラとした恋愛をするほど若くはない私には2人の姿がとても眩しく見えた。
「とにかく!色々と画策して気持ちを試すようなことはお勧めしないよ?蘭ちゃんも園子ちゃんもそのままでぶつかるのが1番よ」
好きという真っ直ぐな気持ちを持つ彼女達は、それが何よりの武器だろう。変な駆け引きなんて必要ないはずだ。
「・・・・・・そうですよね。私もう一度新一と話してみます!」
「蘭がそれでいいならいいけど・・・・・・あの推理オタクが妬いて焦るとこ見たかったな〜」
「もう園子の馬鹿!」
いつもの調子が戻った二人を見てほっと一息をつく。
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