置き去りの恋心 | ナノ
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▽ 脆すぎた約束


大好きだった。


ずっと一緒にいるって信じて疑わなかったあの頃の私は、幸せだったって今でも思うの。







警察学校を卒業した零くん。相変わらずその忙しさは健在で、中々会えない日が続くこともあった。


そんな中でも零くんは、どうにかして私との時間を作ろうとしてくれたから。言葉で、行動で、好き≠伝えてくれた。



約束の時間を少し過ぎて、玄関のチャイムが鳴る。


カーテンの隙間から覗く空はすでに真っ暗だ。



「悪い、約束の時間より遅れた」
「お仕事お疲れ様。零くんが来るからセロリでお漬物作ったんだぁ」


久しぶりに見る零くんの顔。

スーツ姿は何度見てもかっこよくて、自然と頬が緩む。


料理は元々好きだった。彼が好きだと言うから和食の腕が上がった気がする。セロリなんて1人のときは買ったことがなかったけれど、彼が喜ぶからスーパーで見つけるとつい手が伸びる。


私の生活の中心は、いつも零くんだった。


離れていても、会えなくても変わらないと信じていた。



靴を脱いだ零くんは、キッチンに向かおうとした私の腕を引きその胸に抱き寄せた。


「っ、」
「・・・・・・会いたかった」
「ふふっ、私も」


後頭部に回された大きな手がくしゃりと私の頭を撫でる。


私だけに見せてくれる甘えた仕草が大好きで。それを見る度に胸の奥がきゅんと締め付けられる。


零くんは、真面目すぎるくらい真面目な人だから。


頑張りすぎる彼が、私の前では素でいてくれる。それが嬉しかった。


ずっと一緒にいような


そんな子供の口約束みたいな言葉を、心から信じていたんだ。








その日は突然やってきた。


おかしいな、って思ったのは、どんなに忙しくても必ず1日1回はきていた零くんからの連絡がその日はこなかったことがきっかけだった。


次の日になっても連絡はなくて。心配になった私は、彼の携帯に電話をかけた。



『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をもう一度ご確認の上、おかけ直し下さい』


繰り返される無機質なアナウンス。日本語のはずなのに、その言葉が上手く理解できない。


最後に会ったのは、たしか先週の週末だった。


いつもみたいに仕事終わりに零くんが家に来て、晩ごはんを一緒に食べた。「美味しいよ」って私が作った唐揚げを頬張る彼は、取り立てて変わった様子はなかったはずだ。



最初に思ったのは、彼の身に何かあったのかもしれない、ということだった。



何度かけても繋がらない電話。いても立ってもいられなくなった私は、何度か遊びに行ったことのある零くんの家へと向かった。


静かな夜の闇の中、何度もチャイムを鳴らす。ドアをノックしてみても、中から人の気配はしない。


ずるずるとその場に座り込む。


ガチャ、っとドアが開く音がして弾かれたように顔を上げた。


けれどそれは目の前のドアじゃなくて、隣の部屋で。中から出てきたのは、部屋着姿の中年の男性。


彼は怪訝そうに眉をしかめながら、床に座り込む私を見た。



「そこに住んでた兄ちゃんなら、3日くらい前に引っ越したよ。今そこ空き部屋だから」



まるで鈍器に殴られたかのような衝撃だった。


正直、そこからどうやって家に帰ったのか覚えていない。


部屋には零くんの欠片がたくさんあるのに、彼は私の前から忽然と消えてしまった。



喧嘩をしたとか、何か明確な理由があれば納得もできたのかもしれない。でも何ひとつ、分からなくて。


部屋に残る零くんの欠片がなければ、出会ったところから夢だったと思ってしまったかもしれない。



何かあったのかもしれない。



馬鹿な私は、そう思い込んでしまったんだ。

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