置き去りの恋心 | ナノ
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▽ オレンジに染まる影


駅の近くにあるファミレスで、昼食をとることになった俺達。


大人数ということもあり、6人がけの大きな席に案内される。


なまえ、俺、班長。そしてその向かいにヒロ、萩原、松田の順に座る。


各々メニューを見て注文を済ませると、萩原が大袈裟にため息をついた。


「あーあ、でもこれで彼女持ちが増えちゃったねぇ。独り身は寂しいぜ」
「お前の場合、多すぎるくらいだろ」
「ははっ、陣平ちゃん酷いなぁ」


萩原と松田は幼馴染みということもあり、特別仲がいい。松田の歯に衣着せぬ物言いも、萩原はケラケラと笑って流している。




「この中でさ、降谷ちゃん以外に彼女持ちの色男が1人いるんだけどなまえちゃん誰か分かる?」


松田とじゃれ合っていた萩原がなまえに話を振る。俺以外の4人の顔をぐるりと見回す彼女。


ヒロと班長の顔を交互に見ると、ぱん!と手を叩き手のひらを班長の方に向けた。



「伊達さん!」

迷いなく言い切った彼女の言葉に、ぱちくりと目を瞬かせたのは俺達5人の方だった。


班長はパッと見厳ついし、彼女がいると聞いた時は俺達ですら食堂で叫んだくらいだ。


「すげぇ、正解♪ なんで分かったの?」
「んー、さっきの話し方的に萩原さんじゃないんだろうなって思って。残る3人だったら諸伏さんか伊達さんのどっちかだと思ったんだけど、何となく伊達さんな気がしたかな」
「いや、驚いたな。俺が彼女いるって言った時、コイツら叫んで驚いてたんだぜ?」
「あはは!そんなに驚くことかな?伊達さんすごく優しい人だと思うし、女の子なら好きになるのも分かるよ。彼女さんのこと大事にしそうだもん」


優しく笑った彼女は、空になっていた自分のグラスを持ち立ち上がった。


「あ、萩原さんと零くんもお水でいい?」

同じく少なくなっていた俺と萩原のグラスを器用に持ち、ドリンクバーの方へと向かうなまえ。


そんな彼女を見ながら、隣にいた班長がぐいっと俺の肩に腕を回す。



「いい子だな。あの子」
「うん。零、素敵な子見つけたね」
「あーあ、降谷ちゃんずりぃなぁ」


あいつのことを褒められて嬉しい気持ちと同時に、自分の見つけた宝物を誰かに横取りされたようななんとも言えない感覚。


席に戻ってきたなまえに、話しかけたのは松田だった。



「おい、なまえ。なんでさっきの質問で班長とヒロの旦那の2択なんだよ。俺かもしれねェだろ」
「えー、松田さんは彼女いるイメージないもん。初対面であんな事言ってくるくらいだし」
「だから冗談だって言ったろ、それは!」
「ははっ、私も冗談だもん」
「陣平ちゃんに恋愛はまだまだ早ぇよなぁ」
「萩まで・・・っ、うっせェよ!」



じゃれ合いのような3人のやり取り。それを笑って見守るヒロと班長。


なまえはすっかり彼らと打ち解けていて、嬉しいはずなのにどこかぽつんと黒いモヤが心にかかる。






「楽しかったなぁ。みんないい人だね」
「あぁ。そうだな」


ヒロ達と別れて、夕焼けに照らされた路地を2人で歩く。


さっきまでの賑やかさが嘘みたいに静かな路地で、なまえは俺の服の袖を引いた。


「零くんなんかさっきから元気ない?」

ちらりと顔を覗き込んでくるなまえ。心の中を見透かされたような気分だった。


「・・・・・・とられた気分だった」
「え?」
「俺だって久しぶりに会ったのに、アイツらとなまえがすぐに仲良くなるから何となくお前のこととられたみたいな気分になっただけだ」


気恥しさから思わず早口になる。きょとんとした表情を見せたかと思うと、なまえは小さく笑った。


「ヤキモチ?」
「・・・・・自分でもガキ臭いって分かってる」


思わず視線を逸らした俺の手をとった彼女は、くるりとそのまま俺の前に回り込んだ。


「嬉しい。私の方がヤキモチ妬いてばっかりだと思ってたから」
「はぁ?そんな素振り・・・」
「零くんって自分が思ってるより見られてるんだよ?いつも女の人の視線集めてるし。私みたいな平凡な人にはもったいないくらいだもん」



平凡?そんな訳ないだろう。


俺にとってお前は特別だ。



繋がれた手から伝わる温度が愛おしいと思った。




「俺はなまえしか見てないから」
「私もだよ?零くんは特別だもん」


同じことを思っていたことが嬉しくて、握る手に思わず力が入る。



「今日だって零くんの大事な人達に紹介してもらえて嬉しかったの。だから皆と仲良くなりたいって思ったし」
「すぐに仲良くなりすぎだろ。連絡先だって交換してたし、色々距離近すぎ」
「連絡先は何かあった時の為にってみんな言ってたし、距離は・・・・・・萩原さんは元々あんな感じでしょ?」
「萩原もだけど、松田なんかすぐになまえのこと呼び捨てしてただろ」
「ははっ、でもちゃん付けしてる松田さんって想像できないよね」
「まぁたしかにそれはそうだけど」


少しだけいじけた口調で話す俺と、そんな俺をニコニコ笑って受け止めてくれるなまえ。


地面に伸びた俺達の影は重なっていて、それに自然と目尻が下がる。



「なぁ、」
「ん?」


振り返ったなまえが俺を見上げる。気が付くとその腕を引き寄せ、唇を重ねていた。


「〜〜っ、!」
「悪い。つい、・・・って顔真っ赤だぞ」


みるみる真っ赤になっているなまえの顔が可愛くて、つい笑みがこぼれた。


このまま連れて帰りたいとすら思ってしまうくらいには、愛おしさが募る。



「ねぇ、零くん・・・」
「どうした?」


背伸びをしたなまえは、ぐいっと俺の腕を引いた。


バランスを崩した俺の顔に近付くなまえ。リップ音と共に再び重なった唇。


「仕返し!」
「・・・・・・はぁ、」
「怒った?」
「まさか。・・・・・・でも帰したくなくなることしないでくれ。どれだけ俺が我慢してるか知らないだろ」


規則なんてものがなければ、今すぐ彼女をどこかに連れ去りたいくらいだ。


今すぐ俺だけのものにしたい、そんな乱暴な欲求が腹の底から顔を覗かせる。



「我慢してるのは、私も一緒だよ?だから早く卒業して立派な警察官になってね。ちゃんと待ってるから」


にっと、口元に笑みを浮かべたなまえは、強く俺の手を握った。














お前の言う立派な警察官≠ノ俺はなれたんだろうか。


今でも1人の夜はそんなことを考える。


あまりにも犠牲にしたものが、俺にとっては大きすぎたから。

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