▽ 砕けたガラス
非番だったその日、特に予定もなかった俺は家で昼から惰眠を貪っていた。
そのせいで夜中寝れねェなんて、ガキみたいな状態になり特に興味もない深夜の通販番組を眺めながら漫画を読んでいた。
その時、机の上に置いていた携帯が鳴る。
着信 なまえ
その名前を見た瞬間、頭の中に疑問符が浮かぶ。
警察学校時代になまえを紹介してもらって、それからも何度か皆で会ったことはあった。
もちろんその場には零がいたし、なんかあった時の為にって連絡先こそ交換していたけれど実際に連絡があるのは初めてのこと。
それもこんな時間に何の用だ?
「もしもし」
『っ、急にごめんなさい・・・』
「零と何かあったのか?」
電話の向こうのなまえの声は震えていて、何かあったのはその一言で分かった。
読みかけの漫画を机に置くと、寝転んでいた体を起こす。
『昨日から零くんと連絡がとれなくて・・・っ・・・、何かあったのかもって思ったら・・・、他に聞ける人いなくて・・・』
そう言いながら、言葉を詰まらせるなまえ。
仕事が忙しいにしても、零がなまえに連絡しねェなんてあるのか?
まじで何かあったのか、あいつ。
色々な可能性が頭をよぎる。
「家は?行ってみたのか?」
『っ、行ったけど引っ越したって・・・』
「は?××駅の近くのアパートだよな?」
『うん・・・っ、誰もいなくて・・・』
まじで意味わかんねェ。何考えてんだよ、零の奴。
「俺の方から零に連絡してみるから、ちょっと待ってろ。すぐに折り返すから」
『ごめ・・・っ、ん・・・』
1度電話を切り、すぐに零に電話をかける。
『おかけになった電話番号は・・・・・・』
まじで意味わかんねェだろ、あいつ。
向こう見ずなところのある奴だ。事件に巻き込まれでもしたのか?
俺は電話帳を開き、そのまま諸伏に電話をかけた。
今度はコール音が聞こえてきて、ほっと安堵の息をつく。
『もしもし、松田?急にどうしたの?』
「こんな時間に悪ぃな。お前、零と連絡とれてるか?」
『・・・零がどうかしたの?』
この時、俺も焦っていたんだと思う。
だからこそ諸伏の一瞬の間に気付くことが出来なかった。
「なまえから電話きたんだよ、さっき。急に零と連絡取れなくなって、家行っても引っ越していねェって。お前何か知らないか?」
『・・・そっか、なまえちゃんから』
「アイツ何か事件にでも巻き込まれてんのか?」
『いや、違うよ。ただ引っ越したのは、オレも昨日聞いたばっかりで』
「どこ?その新しい家って」
諸伏から零の住所を聞くと、そのままそれを伝えるためになまえに電話をかける。
『もしもしっ、』
ワンコールで電話に出たなまえは、やっぱり今にも泣きそうな声だった。
「俺が電話しても繋がらなくて、諸伏に聞いたらやっぱアイツ引っ越したらしい。住所聞いたから今から言うぞ」
『っ、うん、!』
メモっていた住所を読み上げる。
ここからだと車で30分ほどだろうか。
「お前今どこにいんの?」
『っ、自分の家だよ』
「今から零んとこ行くんだろ?この時間ならタクらなきゃ無理だろうし俺も行くわ」
『でも・・・っ、』
「お前の家の住所だけ送っといて。迎えに行くから」
『ありがと・・・っ・・・』
近くにあった上着を羽織ると、そのまま家を出た。
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