置き去りの恋心 | ナノ
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▽ 奪って、奪われ


肩を震わせながら両眼からぼろぼろと大粒の涙を流すなまえちゃんを支え、彼女が元々いた病室に戻りベッドに寝かせる。


こんな時、松田ならなんて言葉をかけてやるんだろう。なんて考えてみたけど、その言葉が分かったとしても俺が伝えるのと松田が伝えるのでは持つ意味が違う。


安静を兼ねてこのまま今日は病院に泊まるように言われた彼女。あの状態で1人にするわけにもいかなかったし、その方が安心だ。



「・・・・・・はぎ、わらさん・・・」
「ん?」

虚ろな目。覇気のない声で名前を呼ばれ、彼女の方に視線を向ける。


まるで現実から目を逸らすみたいに、両手で目元を隠した彼女はゆっくりと言葉を紡ぐ。



「・・・・・・ごめん、なさい」


震える声で紡がれたのは、謝罪の言葉だった。



「・・・萩原さんの方が辛いのに・・・、強くなれなくて・・・ごめんなさい・・・」
「っ、」
「いつも・・・そうだから。私が弱いせいで周りの人に迷惑かけちゃう・・・・・・」


頬を伝う涙が手の隙間からぽたり、と溢れる。


予想していなかった言葉に思わず言葉に詰まる。


そんなこと・・・・・・、



「気にしなくていいんだよ、そんなこと。なまえちゃんは弱くなんかない。それに俺は迷惑なんて思ってないから」
「・・・・・・っ・・・、」
「それに松田も、なまえちゃんのことを迷惑だと思ったことは1度もなかったはずだよ」


相手のことを考えすぎてしまう子だと思った。

強くて、同じくらい脆い。
必要以上に周りの痛み≠気にしてしまう優しい子。


だからあの2人は、この子を好きになったんだろう。


静かに涙を流すなまえちゃんにこれ以上なんて声を掛けてやればいいのか分からなくて。きっと彼女は、これ以上俺が何を言ってもまた自分を責めてしまう。



「少しだけ1人にして欲しい」、そう言った彼女の言葉に従って、静かに部屋を出て松田のいるICUの方へと向かう。


ICUの前のベンチに腰掛けるひとつの影。




「・・・・・萩原」
「来てくれたんだな。1人か?」
「いや、零も来てる。もうすぐ戻って来ると思うよ」


諸伏の隣に腰掛けながら、ガラス越しに覗く松田に視線をやる。


痛々しいその姿。理解していても、やっぱり心はキリキリと締め付けられる。



「アイツのおかげでもうひとつの爆弾は無事発見。民間人や病院に被害はなしだ」
「・・・・・・、」
「警察官≠ニしては100点だろうな。でもやっぱダチとしては、認められねぇよ」


ずっと張り詰めていた気が緩んだんだろう。

強く握った拳は震えていて、無意識に奥歯を噛み締めていた。


少しの沈黙。こんな風に俺らがヘコむなんて松田はきっと望まない。それは誰より俺が分かっていた。





「まぁでも陣平ちゃんなら大丈夫だよ。ケロッと起きるに決まってる」
「・・・・・・あぁ、そうだな。アイツなら大丈夫だ」

どうにか気持ちを切り替えようと笑った俺に、力強い口調でひとつひとつの言葉を噛み締めるように返してくれる諸伏。


そうだ。アイツがこんなことで死ぬわけない。


自分の中の弱さ≠誰かに話したことで、少しだけ気持ちが軽くなる。


俯いていた顔を上げ、背後にある壁にもたれる。


俺達を包む空気が少しだけ軽くなったような気がした。



「・・・・・・なまえちゃんは?大丈夫なのか?」
「大丈夫、とは言えねぇけど・・・。とりあえず今は1人にして欲しいって言われたから病室で休んでる。後でまた見に行くよ」


言葉を選ぶような微妙な間。なんとなく歪んだ空気。


あぁ、多分これさっきのやり取り見られてたな。


諸伏が見てたってことは、きっとアイツも・・・。




だからこの場にいないってことか。



点と点が繋がるような感覚。あの取り乱した状態のなまえちゃんをアイツが見たなら、きっと誤解≠オている。



「・・・・・今のなまえちゃんを支えれるのは、」


重たい口を開く諸伏。その後に続く言葉は分かっていた。


腹の探り合いなんてものをするつもりはないし、あの濃い時間を一緒に過ごした同期達は俺にとっては大切な存在だ。


優劣なんてつけるつもりはないし、親友だと思っている。



でも、












やっぱり俺にとってガキの頃からずっと一緒にいた松田は特別で。



きっと諸伏にとっての降谷はそんな存在なんだろう。



だからこそ俺達の間の空気が張り詰めた。




「誰かの代わりになれる人間なんかいないよ。それに少なくとも降谷は、1度あの子を捨てたんだ」
「っ、捨てたわけじゃ・・・!」


普段みたいにふざけてちゃん付けで呼ぶことをしない俺に、諸伏の表情も歪む。わざと煽るような言い方をした自覚はあった。


諸伏の反応を見る限り、やっぱり降谷にもなにか理由があるんだろう。そんなことは分かっていた。だってアイツは間違いなくなまえちゃんに惚れてたし、大切にしていたから。





だから俺はあの時確認したはずだ。



「松田となまえちゃん、2人にしてていいの?」
「俺となまえはもう終わってる。今更アイツがどこで誰と一緒にいても関係ない」



終わっている。終わらせようとしている。


俺は松田みたいに優しくはないから。離れようとしている奴の腕を掴んで、向き合わせてやるほどいい奴≠ノはなれない。



「言葉にしなくても分かってもらえるなんて詭弁だよ。大事なことは言葉にしなきゃ伝わらない。だから俺は終わった≠チて言った降谷の言葉を信じるよ」
「大切だから。相手のことを思って言葉にできない気持ちもあるってオレは思う」



どちらも譲ることのない意見。喧嘩なんかじゃない。

ただ意見が食い違うだけのこと。俺と諸伏は、なまえちゃんとアイツらの関係において目線が違うから。



それが決して交わらないだけのことなんだ。

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