▽ 泣きたいのは自分のせい
そこからの記憶は正直今になっても曖昧で。
お腹に響くみたいな轟音。目が眩むみたいな閃光。辺りを包む焦げ臭い匂い。周りの人の悲鳴に、萩原さんが陣平くんを呼ぶ声。
全部全部、何かのフィルター越しに見てるみたいに現実味がなかった。
でもきっと目の前に広がる悪夢≠ヘ現実≠ナ。
『好きだったよ、お前のこと。だからこそ誰より幸せになって欲しいんだ』頭の中で最期≠フ彼の言葉が繰り返される。
慌ただしく行き交う人の中で、まるで足の裏を地面に縫い付けられたみたいに動くことができない。
救急車のサイレン。ストレッチャーで運ばれるその姿を見た瞬間、それは一気に現実≠ノなる。
「嫌・・・、じん・・・ぺい、くん・・・っ・・・」
「・・・なまえちゃん、」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!!!見たくない・・・、こんなの・・・っ、」
何も見たくない。聞きたくない。信じたくない。
足に力が入らなくて座り込んだ私は、現実から目を背けるみたいに両手で頭を抱えた。
そんな私の背中を撫でながら、萩原さんが名前を呼んでくれる。私よりきっと彼の方が何倍も辛いはずなのに。
頭の隅で分かっているのに、それを気遣うことができなくて。
私はずっと陣平くんに甘えてた。
こんなことになるまで、その優しさを利用してた。
好き≠過去形で語ることがどんなに辛いことか。必死に自分が過去のものにしたくても出来なかったその気持ちを、私は彼に強いていたんだ。
「なまえちゃん。松田は大丈夫だから。あいつはそんな弱いやつじゃない」
「っ、」
「だから大丈夫。大丈夫だよ・・・・」
萩原さんの声は震えていて。笑っているのにその顔はいつもの屈託のない笑顔からは程遠くて。私に話しかけてくれているのに、まるで自分に言い聞かせるような響きを伴っていた。
心臓を内側から握り潰されたみたいな感覚。心と身体がバラバラに引き裂かれたみたいだった。
「これ、あいつからのメッセージ。なまえちゃんにだと思う」
萩原さんは、近くにいた警察官の人に何かを小声で告げた後そのまま携帯を私に見せた。
米花中央病院
そしてそれに続けて、追伸と文字が並ぶ。
泣いてると普通から不細工になっちまうから、ちゃんと笑ってろって伝えてくれ
「なんか普通だよな、アンタ」「零と班長から聞いたよ。アンタがガキの為にあの強盗犯に食ってかかったって。ンなことできる奴は、普通≠カゃねェから安心しろ」いつも、いつも、そうだったよね。
初めて会った時から貴方は優しかった。
言葉は悪くても、いつも私に寄り添ってくれた優しい人。
「・・・・・・・・・っ、嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
きっと心が現実に耐えられなかったんだと思う。
私の意識はそこでぷつん、と途絶えた。
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