▽ 何度も空に夢を見た
「サンキュ、萩。あとは頼むわ」
『っ、おい!松田!』
お前がいてくれるから、俺は安心してこの選択肢を選べるんだ。
何かを言いかけた萩の言葉を遮るように電話を切る。携帯を観覧車の椅子の上に置き、小さくため息をつきながら床にずるずると座り込む。
No Smoking
観覧車の中に貼られたそんな注意書きに思わずふっと笑みがこぼれる。
「今日くらい大目に見てくれよ」
ポケットから取り出した煙草に火をつける。ゆらゆらと宙に上っていく煙を見つめる心は不思議と落ち着いていて。
迷いなんてものは、微塵もなかった。
自己犠牲≠ネんて大層なもんじゃねェ。ただ自分の手の届く範囲の人間と、俺ひとりの命。それを天秤にかけた時、前者の方が勝る・・・・・・、それだけのこと。
『・・・・・じん、ぺい・・・くん・・・っ、』頭を過ぎるのは、震える声で俺の名前を呼ぶあいつの声。
泣くんだろうな、多分。
できるなら、ちゃんと最後まで守ってやりたかった。
誰よりも優しいくせに臆病になっちまったなまえと、色々と考えすぎて選択肢をミスった零がきちんと向き合える日まで。
「まぁそれも萩がいるし大丈夫か」
あいつは俺よりもずっと周りを見てる奴だから。
だからきっと大丈夫だ。
手に持っていた煙草がちりちりと灰に変わっていくにつれて、電光掲示板に刻まれた残り時間も減っていく。
残り 4分・・・か。
解体用の工具を手に取り、反対の手で携帯を握る。
もしも、
本当にもしも、
俺が萩の言うように、遠慮≠チてもんをせずにお前に気持ちを伝えていたらどうなってた?
いや、それも違うな。
もしあの日、あのコンビニで出会ったのが零じゃなくて俺だったら?
お前は俺の事を見てくれてたのか?
「なんてな、こんなのらしくねェ」
ふっと嘲笑混じりにぽつりと呟く。
そんなたられば≠ノ意味なんてないんだ。
米花中央病院
片手で素早くその文字を打ち込む。
もしかしたら俺は、惚れた女と親友に余計な荷物を背負わせちまったのかもしれねェな。
優しい奴らだから・・・、
「すげェ顔して怒りそうだよな」
最期に頭に浮かんだのは、今頃地上で泣き叫んでいるであろうなまえといつものヘラヘラした笑顔が嘘みたいにおっかない顔で怒ってる萩の顔だった。
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