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▽ 過去拍手SS



※ 君ありて幸福の番外編SSです。未読の方はご注意ください。


耳を劈くような轟音。お腹に響くような低い揺れ。飛び散る破片に、辺りを包む黒煙。


それは何度も夢に見た光景だった。


そう、これは私が知っている未来。


訪れてほしくないと切に願った未来だった。




11月7日。

どうして私は眠ってしまったんだろう。

どうして研ちゃんの手を離してしまったんだろう。


冷たくなったベッドの半分。
慌てて部屋を飛び出し向かった、事件現場のマンション。

取り乱す私の肩を掴む陣平ちゃんの体温だけが私にとって現実だった。


神様なんて信じない。


なんで・・・・・・っ・・・、


激しい爆発音と共に失われた大切な存在。


ぷつりと私の意識はそこで途絶えた。







ゆるゆると浮上する意識の中。
遠くから名前を呼ばれた気がした。


目を覚ますと目の前にあったのは、大きな観覧車。


嫌だ。・・・・・・見たくない・・・っ・・・やめて・・・。


思わず座り込んだ私の体を支えてくれる人はもう誰もいない。


ポケットに入れていた携帯が震える。


『陣平ちゃん』

表示されたその名前。

鳴り続ける携帯。震える手で通話ボタンを押した。



『一人にしてごめんな』
「・・・・・・っ・・・」


いつもの憎まれ口じゃない。
どこまでも優しい声で紡がれたその言葉に嗚咽を漏らす。

とめどなく流れる涙を拭うことも忘れて、私は観覧車を見上げた。



『萩の仇とりたかったんだけどな』
「・・・っ、じんぺ・・・ちゃん・・・っ」
『泣くんじゃねぇよ。お前のこと泣かせたら俺があいつに怒られる』

小さく笑う陣平ちゃんとは反対に、私の涙は止まってくれない。


嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。


こんな未来、私は望んでない。


『お前は生きろよ。俺と萩との約束だ』


ぷつりと切れた電話。

酷な約束。二人のいない世界で私はどうやって生きていけばいいの?


あの日と同じ黒煙が辺りを包んでいく。


深い、深い、真っ黒な闇が足元から私に迫る。


息苦しい。


まるで喉を何に締められているかのような苦しさ。



二人のいない世界は、真っ暗だった。




━━━━━━━━━━━・・・・・・・・・


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━━━━━━・・・・・・


━━━・・・・・・


・・・・・・


・・・










「・・・・・・い、おい!大丈夫か?」

耳元で聞こえた大きな声に、はっと浮上した意識。

嫌な汗が身体中を包んでいた。



「・・・・・・けん・・・ちゃん・・・?」

心配そうな顔で私のことを見るのは、大切な幼馴染み。

研ちゃんは額に滲んでいた私の汗を服の袖で拭うと、そのまま優しく頭を撫でてくれる。


「ったく、心配かけんじゃねぇよ」
「・・・・・・じんぺ・・・・・・ちゃん・・・っ・・・」

研ちゃんの隣でふんっと鼻を鳴らしながら、私の頭を小突くのは紛れもなく陣平ちゃん。


二人の顔を交互に見る。

そうだ、ここは研ちゃんの部屋だ。



机の上に広がるのは食べかけのお菓子。それに飲みかけのお酒の缶。


いつの間にか眠ってしまったんだろう。


カーテンの隙間からは、まんまるとした月が覗いていた。



「・・・・・・・・・っ・・・・・・、よか・・・った・・・・・・!」

制御出来ない感情は、涙となって溢れ出した。


私は目の前にいた研ちゃんに思いっきり抱き着いた。


突然泣き出した私に驚きながらも、飛びついた私の体を難なく受け止めてれる研ちゃん。背中に回された腕が、ぎゅっと私のことを抱きしめてくれる。

いつもと違う様子の私に、陣平ちゃんも隣で心配そうな顔をしていた。



「よしよし、もう大丈夫だから。怖い夢でも見たのか?」

耳元から聞こえる研ちゃんの優しい声。


そう、あれは夢だ。


二人は私の手の届く場所にいる。


この温もりを、守ると決めたんだ。



「・・・っ、嫌な夢見ちゃった・・・」
「そっか。でももう平気だろ?俺も陣平ちゃんもここにいる」
「・・・、うん・・・っ・・・」

くしゃくしゃと頭を撫でてくれる研ちゃんは、柔らかく目尻を下げながらそう言った。


その瞳は私の中の弱さを見透かしているかのようだった。


「っ、!」

そのとき、むにっと摘まれた私の頬。

隣に座っていた陣平ちゃんが、右手で私の頬を摘みながら眉間に皺を寄せる。


「不細工な顔してんじゃねぇよ。そんな夢忘れちまえ」

それは不器用な彼なりの優しさ。

昔から変わらない彼に、私と研ちゃんはぷっと吹き出す。


「ニヤニヤすんじゃねぇよ!っ、ゲームでもしようぜ」
「ははっ、だな。朝まで桃鉄でもやるか」


二人が私の気を紛らわせようとしてくれてることが分かった。


正反対の二人。

でも同じくらい優しい人達。



二人が失われる未来なんて私は認めない。



英雄なんかじゃなくていい。


ただ、笑って生きていて欲しい。



その笑顔をそばで見ていられたら・・・・・・。



欲張りなそんな願い。



「・・・・・・・・・二人とも大好きだよ・・・」


ぽつりと呟いた言葉は、わいわいと騒ぐ二人にはきっと届いていない。それでよかった。


ただ今はこの幸せな時間が、いつまでも続いて欲しい。そう願わずにはいられなかった。


2022.11.7


彼らに心からの敬意と尊敬を


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