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▽ 過去拍手SS



※ 続・もし出会わなければ の番外編SSです。未読の方はご注意ください。


吐く息が白くなり、街の中がキラキラとしたイルミネーションに包まれる。今年もこの時期がやって来た。



「悪い、今年は休めそうにない」

クリスマスまであと一週間。一緒にソファに腰かけテレビを見ていた零くんが申し訳なさそうに眉を下げた。


「そんな顔しなくていいのに」
「・・・・・ただでさえいつも我慢させてるのに」
「去年いっぱい甘やかしてもらったもん。それに零くんが忙しい中いつも時間作ってくれてるのはわかってるから」


思い出すのは去年のクリスマス。
私が行きたがっていたトロピカルランドに連れていってくれたあの日を思い出すと、今でも自然と目尻が下がる。

思えば彼と過ごすクリスマスも今年で三回目だ。



「なるべく早く帰ってくるから何か食べに行くか?」
「ううん、大丈夫。ご飯作っておくからお家で食べよ?」

ここのところ事件続きで忙しそうだった零くん。早く帰って来れるのなら、少しでも休んで欲しい。

そんな思いからそう言うと、こてんと肩にかかる重み。

私の肩に頭を預けた零くんが上目遣いでこちらを見上げる。


「欲しいものとかないのか?」
「欲しいもの?」
「せめてクリスマスプレゼントくらい用意させてくれ」

きっと私が思う何倍も一緒に過ごせないことを気にしているんだろう。

そんなこと気にしなくていいのに、と小さく笑みがこぼれる。


「零くんが帰ってきてくれたらそれでいいよ。クリスマスっぽいご飯作っておくから一緒にそれ食べよ?」

珍しく甘えるように私に引っ付く彼の頭をそっと撫でる。素直にその手を受け入れる姿が、普段の彼からは想像できないくらい可愛くて。自然と緩む私の頬に彼の手が触れる。


熱を孕んだ青い瞳と視線が交わる。頬に添えられていた手が私の髪を撫で、そのまま引き寄せられる。


ぐるりと反転した視界。目の前には私を見下ろす零くん。そして真っ白な天井。

近付いてきた彼の唇が私の首筋に触れる。


「・・・・・・っ、」

その感触にぴくりと反応する身体。それを見た零くんはくすりと笑う。


「・・・・・・ホント調子が狂う」
「・・・・・・?」
「クリスマスなんて気にする柄じゃなかったのに」
「そう?いつも色々考えてくれてるよ?」

付き合い始めた頃から、忙しいながらも彼は色々と考えてくれていた。年末年始、バレンタイン、ホワイトデー、クリスマス。思い出してみても、いつもどうにか時間を作ろうとしてくれていた。


「お前とだからな」

その言葉の意味が分からないほど鈍感じゃない。

彼がそうしてくれるのは、私の為。そんなこと痛いくらいに分かっていた。


「ねぇ、零くん」
「ん?」

時間を作ろうとしてくれる。一緒に過ごそうとしてくれる。

結果としてそれが毎回叶うわけじゃない。

それでもその姿勢が嬉しくて、大切にされてるって心から思うの。


「大好き。いつもありがとう」
「馬鹿。それはこっちのセリフだ」

何度伝えても足りないその言葉達。再び交わった体温は、さっきより少しだけ熱い気がした。

数日後、私は仕事終わりにポアロにやって来ていた。


入口横に飾られた小さなクリスマスツリー。色とりどりの飾り達が可愛くて、思わず視線が止まる。


「可愛いですよね、そのツリー。裏に片付けてあったの見つけてこの前出したんですよ」

私の視線に気付いた梓さんがツリーを見て笑う。


カウンター越しに彼女と他愛もない話をしていると、キッチンからでてきた零くんが私に気付き隣にやってきた。


「あと少しで終わるので一緒に帰りませんか?」
「うん。待ってるね」

いつの間にか当たり前になったそんなやり取り。そんな小さなことが嬉しくて、胸が温かくなる。


「ふふっ、相変わらず仲良しですね」
「おかげさまです」

そんな私達のやり取りを見ていた梓さんがニヤニヤを隠す素振りもなくそう言って笑う。

私もふざけてそう返せば、久しぶりのガールズトークに花が咲くのだった。






零くんの仕事が終わり駐車場までの道を並び歩く。冷たい風が私達の間を吹き抜けていく。暖かいポアロの店内と外の温度差に首をすくめた私。


「寒っ!」
「そんな首元のあいた服着てるからだろ」

零くんは自分の首に巻いていたマフラーを私の首にぐるりと巻く。

ふわりと香る彼の香りが心地よくて、そのまま鼻先までマフラーを上げる。


「寒くない?」
「俺は大丈夫だからそのまま巻いとけ」

そう言うと零くんはくしゃりと頭を撫でてくれる。


「こんなに寒かったらホワイトクリスマスになったりするかな?」
「さすがに無理なんじゃないか?寒いとはいっても、例年に比べたら暖冬らしいし」
「そっか・・・。外国みたいな大きなツリーに雪が積もってるのとかって憧れるよね」

それはいつかのテレビで見た光景だった。

まぁ日本じゃ無理か、なんて自分で言って思う。



「いつか見に行けたらいいな」
「え?」
「本場のクリスマス。見たいんだろ?」

それはいつか、の未来の約束。

一緒に過ごす月日が長くなるごとにこうして増えていく約束が嬉しくて、幸せで。


「うん!」

頷いた私を見て、零くんは子供みたいだなって小さく笑った。





クリスマス当日。


目の前にはローストチキンをはじめとしたクリスマスらしい食事が並ぶ。あとは零くんが帰ってきたら温めるだけだ。


そして時計が21時を少し過ぎた頃。ガチャリと玄関の扉が開く音がした。


「おかえり!」
「ただいま。遅くなって悪い」

リビングに入ってきた零くんから、コートを受け取りハンガーにかける。


「全部作ったのか?これ」
「うん。初めて作ったのもあるから味は分かんないけど・・・」
「美味そう。ありがとな」
「シチューとか温めてくるね」

キッチンに向かおうとした私を零くんが呼び止める。


「・・・・・・?」

呼び止められた理由がわからなくて、小さく首を傾げる私。零くんは鞄と一緒に持っていた紙袋をこちらに渡す。


「わぁ!ケーキだ!」

紙袋の中にはケーキの入った箱。そっと崩さないようにその箱を開けると、中に入っていたのはフルーツに彩られたブッシュドノエル。

切り株の上でこちらを見るサンタとトナカイが可愛くて口元が緩む。


「ありがとう、零くん!」
「喜んでもらえてよかったよ」

机の上にケーキを置くと、そのままぎゅっと彼に抱きつく。

難なく私の体を片手で受け止めた零くんは、空いた手で鞄から何かを取りだした。


「あとこれ」

ぽんっと私の手の上に置かれた綺麗に包装された箱。重みのあるそれの中身が分からなくて、零くんを見上げた。


「開けていいの?」
「あぁ。むしろ開けてくれなきゃ困る」

ふっと笑った零くん。私は包装紙を破かないように丁寧にそれを開けた。


丸い透明のガラスの中にある緑のツリー。そしてひらひらと舞う白い粉雪。ツリーの上に舞い散るその粉雪達。


「本物じゃなくてごめん。今はこれで我慢してくれ」
「・・・っ、零くん・・・」

私の手の中には、いつかの私が口にしたホワイトクリスマスがあった。


いつかの約束だけで充分なのに。


目の前の彼は、それ以上の幸せを私にくれる。



「・・・・・・ずるいよ、ホント」
「・・・・・・?」


こんなに好きなのに。

もっともっと好きになってしまう。


離れたくない。


ずっと一緒にいたい。


そんな気持ちが日に日に強くなる。


「もっと好きになっちゃうじゃん。零くんのばか」

嬉しいと幸せが入り交じって、溢れた気持ちがじんわりと涙になり目に浮かぶ。


こぼれ落ちる前に零くんの手が私の目尻を拭う。私を見るその瞳はやっぱり優しくて。そこに滲むたしかな愛情。


「泣き虫。サンタに笑われるぞ」


そう言って笑う零くんが愛おしくてたまらなかった。


ずっと、ずっと、この先もずっと。


彼の隣でいられますように。



May your Christmas wishes come true!



おまけ


「なぁ、風見。この辺りに針葉樹林ってあるか?」
「・・・はい?針葉樹林・・・ですか?」
「あぁ。できればモミの木だとなおいい」

二日ほど徹夜続きの降谷さん。
不意にそんなことを言われ、パソコンを触っていた手が止まる。


「さすがにこの辺りにはないと思いますが・・・。一体何に・・・?」
「あいつがツリーが見たいらしい」
「・・・・・・へ?」
「ホワイトクリスマスに憧れてるらしい。でかいツリーと雪だな」


あぁ、そういうことか。

あいつ、彼がそう呼ぶ女性の姿が頭に過ぎる。


というかこの人は彼女の為に、木を伐採しにでも行くつもりなんだろうか。ありえない話だが彼ならやりかねない、とも思う。


「・・・えっと、降谷さん?さすがにそれは・・・」
「冗談だ」
「はい?」
「いくらなんでもそこまではしない。まぁあいつが本気で望むなら方法を考えるが」

がくり、と肩の力が抜けたような気がした。
彼の冗談は、冗談にならない。

その言葉の通り彼女が本気で望めばそれすら叶えてしまいそうで。


「先に帰るぞ。お前もそろそろ帰って寝ろよ、目の下のクマがあの男並みだ」
「っ、お疲れ様です!」

いつの間にか降谷さんの前に山積みになっていた書類はなくなっていた。あぁ、そういえば今日はクリスマスだ。

彼がここのところ仕事を詰め込んでいたのは、きっと今日早く帰るため。自然と目尻が下がり口元が弧を描く。


「・・・・・・悪くないな。そういう相手がいることも」

降谷さんが帰ったあとの誰もいないデスクにそんな俺の声が小さく解けて消えた。


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