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▽ 過去拍手SS



※ もし出会わなければ の番外編SSです。17話後のお話なので未読の方はご注意ください。





「初詣?そんな時間あるんですか?」
「流石にそれくらいの時間はある。近くの神社にはなるけど一緒に行くか?」
「はい!行きたいです!」
「じゃあ明日の昼前に迎えに来るよ」


大晦日。

夕食を一緒にとり、これからまた仕事へ向かうという降谷さんを玄関で見送っていると思わぬ誘いを受けた。

年の瀬が近づくにつれて多忙を極めている彼に、お正月の予定を聞くのも忍びなくて私からは触れずにいたその話題。

まさか降谷さんから誘って貰えるとは思っていなかったので、扉がしまったあと無意識に口角が上がる。


「一緒に初詣とか楽しみだな」

またひとつ彼との思い出が増えていくことに、私の頭の中は嬉しさでいっぱいだった。





元旦。

近所の神社に向けて二人並び歩く。次第に神社が見えてくると同時に、ずらりと並んだ人も目に入る。人混みを避けようと、午後からの参拝にしたがあまり意味はなかったらしい。


「すごい人・・・・・」
「地元の人達はみんなここに集まるみたいですからね」

そう言いながら私達も一礼をし鳥居をくぐる。


なんだかポアロ以外で安室さんと一緒にいるのは変な気分だ。当たり前だけど、降谷さんとは違って人当たりのいい笑顔と柔らかい物腰で私に接する安室さん。


そのギャップに慣れたわけではないけれど、出会った頃のように彼の笑顔を怖いとは思わなくなった。

それはきっと向けられる笑顔が・・・・・・、優しく細められたその瞳が・・・・・・、偽りじゃないと分かったから。どちらの彼も根っこの部分は同じだと知ったからだ。


そんなことを考えながら手水舎で手を清めたあと、参拝を待つ人の列に並ぼうと歩き出したとき・・・・・、


「安室さん!」

安室さんを呼び止めた、聞き慣れた少し幼い声。


「コナン君も来ていたんだね」
「うん!二人とも明けましておめでとう」
「明けましておめでとう。去年は色々とお世話になりました」

ぺこりとお互いに頭を下げ新年の挨拶をする。

流石にコナン君も安室さんが隣にいるこの状況で、色々と探りを入れてくる様子はないらしい。あくまで子供らしい笑顔で挨拶をする彼の姿に、ほっと安堵のため息をもらしそうになり慌ててそれを飲み込む。


「安室さんはお姉さんと二人?」
「そうだよ。コナン君は毛利先生達と来たのかい?」
「ううん、おじさんと蘭姉ちゃんは午前中にお参りに来たみたい。僕は博士の所に行ってたからタイミング逃し・・・・・て・・・」

それまで言うと何かを思い出したかのように、コナン君の視線が気まずそうに逸らされる。

次の瞬間、彼が気まずそうに目を逸らした理由がわかった。


「おや、偶然ですね」

人ごみの間を縫って現れた昴さん。その姿を見るなり、隣の安室さんの纏う空気が僅かに鋭さを帯びたことは、私の勘違いだと思いたい・・・・・。


「昴さん、明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう。貴女も来ていたんですね」
「午前中は混むかなと思って午後にしたんですけど、やっぱりそれでも人は多いですね」
「そうですね、この辺りの人が一気に集まりますからね」


他愛もない話をしていると、不意に昴さんが私の方へと手を伸ばした。


「昴さん?」
「鼻が赤くなってますよ。ちゃんと温かくしておかないと風邪をひいてしまいます」

そう言うと昴さんは私のマフラーを、すっぽりと鼻が隠れるところまで巻き直してくれる。


「ありがとうございます」
「体調には気をつけてくださいね」

そのままぽんっと頭を撫でると、昴さんはコナン君の方へと向き直る。


「ではこれ以上お邪魔をするのも悪いので、そろそろ帰りましょうか」
「あ、うん!じゃあ二人ともまたね!」

そう言って手を振りながら去っていく小さな背中。姿が見えなくなると、私達は御参りをするため参拝の列へと並んだ。





「・・・・・・」
「・・・・・・」


なんだろう、この重苦しい沈黙は・・・。


「・・・・・・安室さん」
「どうしたんですか?」
「・・・・・怒ってますか?」
「怒っていると思いますか?」

にっこりと浮かべられた笑顔。けれど目だけは笑っていなくて、怒っていると嫌でも伝わってくる。

前言撤回だ・・・、安室さんの笑顔はやっぱり怖い。


「えっと・・・・・、昴さん・・・のことですか?」
「・・・・・」

無言の肯定とはこの事だろう。
なんと切り出すべきなのか思考を巡らせる。


「・・・昴さんとは何もないですよ?」
「当たり前だ」
「え?」
「知ってるよ、何もないことくらい」

はぁ、と安室さんがらしくないため息をつく。そして先程の昴さんと同じように、私の方へと手を伸ばした。

けれどその手が昴さんのように優しく頭に触れることは無く、ぎゅっと鼻を摘まれる。


「・・・んっ、痛いです」
「あいつ相手ににこにこ笑うな」
「へ?」

それだけ言うと、安室さんは手を離す。そしてそのまま顔を私の耳元に寄せる。


「貴女は俺だけを見ていればいい」

囁かれた言葉に、自然と鼓動が早くなる。頬が赤くなっているのが自分でもわかる。


参拝の列が進み、安室さんは何食わぬ顔で足を進める。慌ててその背中を追いかけ、隣に並ぶ。


「・・・・・安室さんって意外と嫉妬深いですよね」
「今頃気付いたんですか?独占欲は強い方だと思いますよ」

さらりと言われた言葉に、私の頬はまた赤くなる。なんだか私ばかり彼の言葉に振り回されている気がして、どうやって返事をすべきかすぐに言葉が出てこない。


そんな私を見て、安室さんはそっと私の腕を引いた。あっという間に縮まる距離。触れ合っている手からは、温かな彼の体温が伝わってくる。


「貴女が初めてですよ。こんな気持ちになるのは」


ずるい。囁かれたその声があまりにも優しくて・・・。そんなことを言われたら、私ばかり振り回されているなんてどうでもよくなる。


得意気に笑って私の名前を呼ぶ彼を見ながら、今年も彼には敵わないんだろうなと思うのだった。



Happy New Year!

May this year will be happy and fruitful.



〜おまけ〜


「ねぇ、昴さん。さっきのわざとだよね」
「なんの事かな?」
「安室さんが怒るってわかってたんでしょ?」
「さぁ、どうかな」


探偵事務所までの帰り道、先程の出来事を思い出しながら昴さんに問いかける。笑いながら答える昴さんは、間違いなく確信犯だ。

昴さんが彼女に触れた瞬間の安室さんの雰囲気は、思い出すだけでぞくりとする。

それを気にもとめてない昴さんは、流石と言うべきか・・・・・。


これから先あの三人と同時に出くわす機会がこないことを願う少年だった。


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