▽ 1-5
「・・・・・・よければ私の家で少し話をしませんか?」
深夜とはいえいつ誰が通りかかるか分からない場所で話を続けるわけにはいかない、そう判断したであろう彼に提案される。
今さら誤魔化せるわけがない上に、今ここで彼と離れても行く宛などない私は素直に頷く。そして5分も歩かないうちに漫画で何度も見た工藤邸に着く。
「どうぞ、私の家ではないのですが家主の許可は取ってありますので」
沖矢さんは玄関の扉を開けてくれる。
先程の自分の失態で少し冷静さを取り戻した私は彼のあとに続く。
「少しここで待っていてもらえますか?」
1人書斎に残された私は、そこにある本の量に驚く。アニメや漫画では見たことがあったけれど、実際目にするとすごい迫力だ。
キッチンで何やら作業をしていた沖矢さんが、お盆を手に戻ってきた。
「コーヒーで大丈夫でしたか?」
テーブルの上にコーヒーを置きながら私に問いかける。
「・・・・・・大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
彼がソファに座るとわたしも目の前の椅子に腰掛ける。
しばらく無言が続き、お互いのカップの音と時計がチクタクと時を刻む音だけが響く。
「さて、少しは落ち着いたようですね。話を聞かせてもらえますか?」
沈黙を破るように本題を切り出してきたのは沖矢さんの方だった。
何から話せばいいんだろう。全てを話しても大丈夫なんだろうか、私が何か伝えることで原作が変わってしまったりはしないんだろうか。今さらそんな不安が頭をよぎる。
「先に言っておきますが、本当の事を全て話しておいた方がいいと思いますよ?」
そんな私の迷いを見透かすように彼は言う。そうだよね・・・・・・私なんかがこの人を誤魔化せるわけがない。彼がどれだけ頭のきれる人物かは、嫌という程わかっているつもりだ。ましてや自分の正体を見ず知らずの女が知っていたのだ、少しの矛盾も見逃してはくれないだろう。
「・・・・・・・・・突拍子のない話ですが信じてもらえますか・・・・・・?」
全て話すしかない、そう腹を括り真っ直ぐに彼を見つめる。
「聞いてみないとなんとも言えませんね。でも貴女が嘘偽りなく話してくれると約束してくれるのであれば、例えどんなに突拍子のない話でも最後まで聞くと約束します」
彼のその言葉を聞き、心を決めた私は全てを彼に話した。
自分で話していてもとても信じられる内容ではない、逆に私が沖矢さんの立場であったなら絶対に信じないだろう。
でも沖矢さんはそんな話を途中で口を挟むこともなく黙って最後まで聞いてくれた。
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