▽ 1-6
「───・・・それで行く宛もないので公園にいたら沖矢さんに会いました。一方的にだけど、知っている人に会えた安心感で取り乱してしまいました・・・・・・」
全てを話終えた私は、彼がどんな反応を返してくるのかが想像できず俯いてしまう。
「なるほど・・・・・・ここじゃない別の世界か」
聞こえてきたのは、先程までの沖矢さんの声ではなく正真正銘の赤井さんの声だった。
おそらく私が俯いていた間に、変声機の電源を切ったのだろう。
「・・・・・・信じてくれるんですか・・・?」
「君の言う通り確かに突拍子のない話ではある、だからと言って君がこんな嘘をつくメリットが思いつかない。それにもし俺や俺の仲間達に近付くのが目的ならもっと現実的な嘘をつくだろう?」
違う世界からやってきました、たしかにそんなことを話して信じてくれる人少ないだろう。
「それに俺の正体を知っていることや、ボウヤのこと。奴らのこともただの一般市民がここまで詳しく知っているとは思えない。それで君はこれからどうするんだ?」
「・・・・・・どうすればいいかわからないんです・・・・・・。帰り方がわからない以上はしばらくはこの世界にいなきゃいけないとは思ってるんですが・・・」
目の前に座る赤井さんは、少し考える素振りを見せたあと口を開く。
「しばらくここに居ればいい」
「・・・ここに居てもいいんですか・・・・・・?」
予想していなかった提案に驚きが隠せない。
「この世界を物語として知っているという君を、このまま放り出すわけにはいかないのはわかるだろう?これから起こることを知りたいという輩は、たくさんいるんだ。そんな奴らがみな善良な人間だとは限らない」
頭には漆黒につつまれたあの組織が浮かぶ。
「赤井さんは知りたいとは思わないんですか・・・・・・?」
ふいに頭に浮かんだ疑問が口をつく。
「これから先の未来をか・・・?君が奴らのボスの正体でも知ってるのであればすぐにでも教えてもらいたいが、知らないのだろう?」
冗談めいたトーンで問いかけてくる。
赤井さんに話したのは、私がこの世界を物語として知っているということ、その物語はまだ完結していないこと。色々な説があるにけれど私にはボスの正体なんて分からない。
彼の問いに小さく頷く。
「なら無理にそれ以外の未来の話を聞き出そうとは思わない。確かに君の知る俺達は、物語の登場人物に過ぎないのかもしれないが、ここにいる俺達は自分の意志のある人間だ」
姿かたちこそ沖矢さんのままだが、そう話す彼の目は間違いなく赤井秀一のものだ。
「だからこそ、その物語の通りに話が進むかだって分からないだろう。それにまぁまだ100%君の話を信じた訳じゃない、だからこそそばに置いて君の事を調べさせてもらいたいんだ。心配しなくても悪いようにはしないさ。君に敵意がないことは充分伝わった」
話をちゃんと聞いてもらえたこと、完全にではないにしろこんな現実味のない話を信じてくれたこと、そしてなによりここに居てもいいと言ってくれた・・・・・・私の目にまた涙が浮かぶ。
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