▽ 1-2
「これからデート?」
「別に、飯食いに行くだけ」
揶揄うみたいな口調の佐藤に、素っ気なくそう返すもミラー越しに見えた萩となまえの姿に思わず眉が歪む。
アイツら、無駄に距離近ぇんだよ。
萩となまえは、別に仲がいいわけじゃない。
顔を合わせればなまえを揶揄う萩と、そんな萩に噛み付くなまえ。
友達≠ニいうよりは、腐れ縁≠ニいう言葉がぴったりで。
それでも俺に見せる顔とも、諸伏達に見せる顔とも違う表情を萩に見せるのは少しだけ面白くなくて。
「ふふっ、松田君もそんな顔するのね」
「はぁ?なんだよ、そんな顔って」
「鏡でも見てきたら?」
くすくすと隣で笑う佐藤を小さく睨み、はぁとため息をこぼす。
「でもあの子、ホントに松田君のこと好きなのね」
「・・・・・・だろうな」
「すごい自信ねぇ。不安になったりしないの?」
不安、か。
考えたことなかった。
だってアイツは昔から俺しか見てなかったから。
他の男話しててイラつくことはあっても、不安と思ったことはない気がする。
「・・・・・・ない。ガキの頃からずっと好き好き言われ続けてもうそれが当たり前みたいなもんだし」
なんか自分で言ってて小っ恥ずかしい気もするけど、それが事実で。
付き合い始めてからは特にそうだ。
言葉で、行動で、なまえは好き≠伝えてくるから。
「ごちそーさま♪ でも女の子って何か小さなことで冷めたりするんだから、気をつけなさいよ」
「うっせぇ。ほら、さっさと行くぞ」
駐車場にとまった車。ドアを開け外に出ながら、佐藤に言い返すもその言葉は何故か頭に深く残った。
なまえが俺に冷める・・・?
ンなのありえねェだろ。
*
「・・・・・・、」
「そんな顔すんなって。今日寝るまででいいから」
「無理、私が寂しくて死ぬ」
「死なねぇから安心しろ。ちゃんと我慢出来たら、面白ぇもん見れっから!」
「面白ぇもん・・・?」
「陣平ちゃん絡みで俺が読み外したことないだろ?」
悪戯っぽい笑顔で、ぱちんとウインクをする萩原。
ムカつく顔たけど、たしかに彼の言うことも一理ある。
「・・・・・・分かった」
「結果報告楽しみにしてるわ♪」
何となく萩原に乗せられた感があるのは否めないけど。
萩原は楽しげに笑いながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
陣平以外に触られるのは嫌い。
でも正直、萩原とのこの距離感はもう慣れに近いものがあって。
私が嫌がればこいつは調子に乗って揶揄うから、大人な対応ってやつだ、これが。
無駄に背の高い萩原に見下ろされながら、その手を振り払うのか面倒でされるがままになっていると背後から「なまえ」と名前を呼ばれ、ぱっと振り返る。
「我慢、な」
「・・・・・・っ」
駆け寄って飛びつこうとした私の耳元で、萩原がそう囁く。踏み出そうとしていた足が、ぴたりと止まる。
我慢、我慢、・・・・・・うう、我慢。
心の中で念仏みたいに繰り返す。
そんなことをしている間に陣平は私の目の前で。いつもみたいに気怠そうな顔で私を見下ろす。
「飯行くんだろ?さっさと行くぞ」
「っ、うん!じゃあね、萩原!」
「おう!ちゃんと約束守れよ〜」
満面の笑みの萩原にムカついたけど、すたすた歩く陣平に置いていかれそうで慌ててその背中を追いかけた。
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