番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


いつもより少しだけ早く仕事が終わり、外に出るとそこには見慣れた人影がひとつ。壁に背中を預けながら携帯を触っていた。


スキニーデニムに、黒のラフなTシャツ姿。彼女にしてはシンプルなその服装。高い位置でまとめられた長い髪が、風でふわりと揺れる。


横を通る奴らがその姿をちらちらと盗み見ていて。

昔から変わらず人目を引くやつだなぁ、なんて思いながら声をかける。



「よ!なまえ」
「・・・・・・なんだ、萩原か」
「相変わらず俺への対応冷たいねぇ。陣平ちゃん待ち?」


携帯から上げこっちを見るも、俺だと分かると小さくため息をつくなまえ。キャーキャー騒ぐ俺の周りの女の子達とは正反対のその反応は、昔から変わらない。


まぁ今更ニコニコ愛想いいなまえのが、なんか企んでそうで怖いけど。


「そ。ご飯行く約束してて、早く会いたいから迎えに来た」
「仲良さそうで何よりだ♪」


紆余曲折を経てやっとくっついた2人。


昔から見守ってきた身としては、やっぱり2人が仲良く幸せそうなのは嬉しいもの。


そんな話をしていると、1台の赤い車が入ってきて俺達の前に止まる。


助手席の窓が開き、そこから顔を覗かせたのは陣平ちゃんだった。運転席にはもちろん佐藤刑事の姿。


この前の一件もあったから、さすがに言葉には出さないけどなまえの眉がぴくりと上がる。



・・・・・・ホント、分かりやすい奴。



「もう来てたのか。悪い、待たせて」
「ううん、ヘーキ。私が早く会いたかったから時間より早く来ちゃっただけだし」
「荷物取ってくるからあと少しだけ待ってて」


それだけ言うと、俺に「お疲れ」と軽く手をあげ助手席の窓が閉まる。


車内で何かを話す2人の背中がリアウィンドウ越しに見えて、なまえの眉間の皺がまた深くなる。



「皺、寄ってんぞ」
「っ、!」


揶揄うように笑いながらその皺を軽く指で小突くと、なまえはむっとしたように顔を顰めた。


「だってムカつく。私以外の人と話してる陣平なんか見たくない」
「仕事だから仕方ねぇじゃん」
「分かってるもん・・・、だから何も言わずに我慢したじゃん」
「だな。えらいえらい。成長したなぁ」
「・・・・・バカにしてるでしょ」


ジト目で俺を睨むなまえ。


成長したとは本気で思ってる。
だって昔のなまえなら、陣平ちゃんが女と絡むなんて理由がどうあれ絶対無理だったから。

「私以外の女と話したら嫌だ!」なんて陣平ちゃんに泣きついたり、怒鳴ったり、なんて昔はよく見た光景だ。


あの短気な陣平ちゃんが、何だかんだなまえのその癇癪にキレずに(たまにキレてたけど)向き合ってるんだから、まぁあいつもそういうことなんだろう。



「圧倒的に私の好きが大きいんだもん・・・。陣平はヤキモチなんか妬かないし」


ぽつり、と彼女にしては珍しく自信なさげな声でそう呟くなまえの瞳はゆらゆらと不安げに揺れていて。


あんなにいつも自分に自信がある奴なのに、陣平ちゃんが絡むとこいつは途端に不安定になる。


そんな心配しなくても、陣平ちゃんはお前のこと・・・・・・、






あ、待って。いいこと考えた。



頭に浮かんだそれに、思わず口元が弧を描く。





「なぁ、なまえ。俺いいこと思いついた」
「・・・・・・・・絶対ろくでもないことでしょ、それ」
「ひでぇなぁ。なまえは陣平ちゃんの気持ち知りたくねぇの?」
「っ、」



呆れたみたいな顔をしていたなまえが、その言葉にぱっと俺を見た。

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