▽ 1-2
「もう付き合って長いの?あの子と」
「3年ちょいかな」
彼女達と別れ、本庁まで戻る道すがら。
もちろん話題は、松田君の彼女の話になる。
思っていたより長いその付き合いに驚いた。
大学時代から付き合ってたことなんだ。
あの嫉妬心を隠そうとしない感じ、付き合い始めなのかなと思ったがそうでもないらしい。
「何だか想像してたタイプと違うわね。・・・あ、悪い意味じゃなくてね」
慌ててそう付け足した私を見て、松田君はふっと笑みをこぼす。
「うるさいし。すぐ勘違いして怒るし、ガキみたいだよな・・・ホント」
呆れたような物言いとは裏腹に、そんな所が好きだと。何となく雰囲気から伝わってきたような気がした。
「そんな顔で笑うのね、松田君も」
小さく呟いたその声は、ちょうど隣を走っていたトラックの騒音で彼の耳には届かなかった。
*
数日後、非番ということもあり新しい家具が見たいという由美の買い物に付き合って北欧家具を取り扱う大型施設へとやって来ていた。
広い店内、由美と話しながら雑貨コーナーを見ていると少し向こうに見知った人影を見つけた。
「あ、」と思わず呟いた私の視線の先に気付いた由美が、「松田君じゃん!」と声を上げる。
幸い、店内の喧騒にのまれたその声が彼に届くことはなかった。
いつものスーツ姿じゃなくて、ラフな私服姿の彼を見るのは何だか新鮮だった。
「陣平見て見て!これ色違いで欲しい!」
「どんだけコップ買うんだよ。家にあるだろ」
「お揃いがいいの!あ!ぬいぐるみいた!」
そんな松田君に駆け寄るのは、あの日見た女の子だった。
両手に色違いのマグカップを持った彼女は、松田君の持っていたカゴにそれを入れると近くにあったサメのぬいぐるみの元へと走っていく。
「何!あの子!松田君彼女いたの?!」
「らしいわよ。可愛い子よね」
「たしかにめちゃくちゃ可愛いけど、なんか松田君があぁいうキャピキャピしたタイプって意外かも」
数日前の私が思ったことを繰り返す由美。
ニヤついた表情を隠そうともせす、2人を盗み見る由美の姿に呆れたような笑みがこぼれる。ホントこういう話好きよね、由美って。
「ねぇねぇ、クマとサメどっちがいいかな?」
「どっちもいらねェだろ。邪魔になる」
「ヤダよ!このぬいぐるみ欲しくて来たのに!」
「はぁ、まだサメじゃね?クマより小さいからまだマシ」
「じゃあサメにする♪ 待って、でもこの子達ひとりひとり顔が違う気がする!」
カゴに詰められたサメのぬいぐるみの顔をひとつひとつ確認する彼女。
そんな彼女に「早く選べよ」なんて言いながらも、ちゃんと隣でそれを見守る松田君。
その瞳はやっぱり優しくて。
「・・・・・・ベタ惚れじゃん、あれ」
「由美もそう思う?」
「うん。なんて言うか空気が甘ったるい」
顔を顰めながらそう言った由美に、思わずくすりと笑みがこぼれた。
きっと職場では見せない、あの子にだけ見せる彼の一面。
幸せそうなその雰囲気が、少しだけ羨ましいななんて思わずにはいられなかった。
Fin
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