番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-1


※ ほぼ佐藤刑事目線のお話になります。苦手な方はご注意ください。



松田陣平。

最近異動してきた、色々と話題のこの男。


爆処にいた頃から何かと問題児だったらしいが、爆弾解体の技術はピカイチで。捜査一課に異動してからも、洞察力や判断力に優れていて優秀な刑事といえるだろう。


ただ問題は、その性格だ。


愛想がいいとは決して言えない彼は、歯に衣着せぬ物言いから周りとぶつかる事も多かった。それでも警察官として間違えてることは言っていないし、何だかんだ周りも彼を認めていた。


それにしても・・・・・・、



「さっきの説得の仕方はどうかと思うわよ!もっと親身になって寄り添わなきゃ!」
「あんな状況でそんな悠長なこと言ってたら、足踏み外して落ちてたかもしれねェだろ」
「だからってあんな強引な・・・」


助手席に座る松田君は、だるそうに欠伸をしながらため息をつく。


飛び降り志願者の制止のため向かったビルの屋上。今にも飛び降りようとしている女性の腕を強引に引き寄せると、「ンな迷惑なとこで飛び降りんな!」なんて怒鳴ったもんだからその女性はびくりと肩を震わせた。


何はともあれ、その女性は飛び降りを諦めてくれたから良かったもののあの言い方はどうかと思う。


小言を言う私の言葉を聞いているのかいないのか。


こんな態度だから先輩刑事に、睨まれることが多いんだろう。



その時、車内に響いたのはなんとも間抜けなお腹の音。松田君は、ニヤりと揶揄うように笑いながら「腹減ったんなら飯でも食う?」なんてこちらを見る。


む、むかつく・・・!!!


けど朝からマトモに食べていないせいでお腹が吸いているのは事実。ちょうど少し先に、牛丼チェーンの店を見つけそれを指さす。



「あそこでいい?」
「色気ねェもん食ってるなぁ」
「うるさいわね。ホント一言余計なのよ」


そんな下らない言い合いをしながら、ウィンカーを出しその店へと入る。


店内に入ると、入口近くのカウンターでそれぞれ注文を済ませ席に着く。こういう店は注文してから出てくるまでが早いのがいい。


席に着いて5分もしないうちに、出来たての牛丼が運ばれてくる。



「大盛り?それ」
「そうよ?松田君それで足りるの?」
「朝飯食ってるし、俺。十分足りる」


いただきます、とお互い手を合わせて箸を進めていると彼の携帯が鳴った。


「悪い、電話出る」
「どーぞ」


セットでついてきたお味噌汁を飲みながら、そう答えると彼はその電話に出た。



「もしも・・・『陣平!!!今何してるの?てかその人誰?!』


スピーカーフォンにしてるわけでもないのに、電話の向こうの声がキン!と響く。


松田君はうるさそうに顔を顰めると、携帯を耳から少し離しため息をつく。


「・・・・・・うるせェ。飯食ってるだけだけど・・・、お前どっかで見てンの?」


彼がそう言ったのとほぼ同時、店の入口の自動ドアが開き1人の女の子がつかつかとこちらに近付いてくる。そしてその後ろから入ってきたのは、いつだったか事件の時に会ったことのある松田君の幼馴染みの萩原君だった。


「うるさくて、すいません」と店員さんに頭を下げる萩原君。その女の子は、私達のテーブルの隣まで来るとそのまま松田君を思い切り睨む。


そしてその綺麗な顔を怒りに歪めながら、私に視線を向ける。



「・・・・・・っ、浮気?!」
「声でかいし、浮気じゃねェ。てかお前こそ何で萩と一緒にいんだよ」


面倒くさそうにそう言いながらも、萩原君の名前を口にする彼の顔は少しだけ苛立っていて。


何となく2人の会話から察するに・・・・・・、



「松田君の彼女?」
「・・・・・・は?アンタ誰?陣平にちょっかい・・・」
「なまえ、やめろ。ただの職場の先輩だから」


なまえ。

そう呼ばれた彼女は、不機嫌を隠そうともせず私を睨む。そんな彼女を諌めるように松田君は、立ち上がり彼女の腕を引き店の外に出た。





店の外になまえを連れ出し、はぁとため息をつくとなまえの表情が一気に曇る。


「この前話しただろ、教育係の先輩がつくって。あの人がその先輩」
「わざわざ一緒にご飯食べに行くの・・・?」
「たまたま捜査で外出てた帰りに腹減ったから飯食ってただけ。てかお前こそ何で萩と一緒なんだよ」
「隣の服屋で買い物してたらたまたま会って、荷物重たかったから車で送ってもらおうとしてただけ。萩原が陣平に連絡入れとくって言ってた」


その言葉に携帯を確認すると、たしかに少し前に萩から『買い物してたらたまたまなまえに会ったから、荷物持ちで家まで送るねん♪』とメッセージが届いていた。


全然気付かなかった。


それでも何となく面白くない気がして。その苛立ちには気付かないフリをした。


「とりあえず店戻ったら佐藤に謝れ。分かったな?」
「・・・・・・うん」
「あと何でもかんでも浮気にすんな」
「だって嫌だもん・・・!陣平が私以外の人のこと見てるなんてヤダ!!」


でたよ、我儘。


ガキの癇癪みたいなそれは、まだまだ直りそうにない。


「俺が女として見てるのはお前だけなんだけど、それじゃダメなわけ?」
「っ、」
「今抱きついたら怒るぞ」
「・・・・・・っ、我慢、する・・・」
「ん、いい子」


くしゃりと頭を撫でると、そのままなまえの背中を押し店内に戻った。






店の外で何やら言い合いをする2人。そんな彼らを横目に、さっきまで松田君が座っていた場所に萩原君が腰掛ける。



「すいませんね、飯の途中に騒がしくさせちゃって」
「それはいいんだけど・・・。あの子は?」
「陣平ちゃんの彼女っすね。隣の店で買い物してたんですけど、たまたま2人がここにいるのなまえが見つけちゃって止める間もなく乗り込んじゃってました」


ケラケラと楽しげに笑う萩原君。そんな彼とは裏腹に、ガラスの向こうでは怒ったり泣きそうになったりと百面相をする彼女と、眉間に皺を寄せたままの松田君が視界の端に映った。



何となく、そんな2人の組み合わせが意外で。


きっとそれが顔に出ていたんだろう。


「ご馳走様でした」と箸を置いた私に、萩原君が話しかけてくる。



「意外っすか?陣平ちゃんの彼女があんな感じって」


色恋沙汰に疎い私にも分かる。あの子は間違いなく松田君と一緒にいた私に嫉妬していて、なおかつそれを隠そうともしない。


「少し驚いただけ。松田君って束縛されたり、干渉されるの嫌いそうだと思ってたから」
「ははっ、たしかに♪ サバサバした子の方が好きそうっすよね。なまえはその真逆だし」


そんな話をしていると、店内に戻ってきた松田君達。


しょぼんとした顔の彼女は、「ほら、」と松田君に促され私の隣に立った。



「・・・・・・いきなり突っかかってごめんなさい」
「いや、それは全然大丈夫なんだけど、」
「悪かったな」


慌てて顔の前で手を左右に振った私と、彼女の隣で小さく謝る松田君。


一段落ついた私達は、そのまま店を出た。


車に戻ろうとした松田君の腕を掴んだ彼女。松田君は足を止め、彼女の方に向き直る。



「・・・・・・怒ってる?」
「もう怒ってねェよ。いつまでしょぼくれてンだ、バカ」


くしゃりと彼女の頭を撫でる彼の横顔は、今まで見たどの表情とも違って優しくて。


何となくその横顔から目が離せなかった。

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