番外編 ゼラニウム | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


▽ 1-1


「別れよ。他に好きな奴できた」


それは昔、何度も向けられたことのある冷たい眼差しと低い声だった。



だるそうにそう話す陣平は、私の顔から視線を逸らす。



心臓が音を立てて壊れていくような感覚。足元がぐらりとふらつくのをどうにか堪え、キッと彼を睨む。



「ふざけんな!誰?他に好きな女って!」
「何でそれをお前に言わなきゃいけないワケ?」
「言えないなら絶対別れない!てか、言っても別れないし!」
「お前のそういうとこが無理なんだって。うるせェ、まじで」



かったるそうにそう吐き捨てた陣平は、私に背中を向けて歩き出す。追いかけたいのに、地面に縫い付けられたみたいにその場から足が動かない。


動け、動け、動け。

そう何度も自分の足に言い聞かせるのに、言うことを聞いてくれそうにない。



「・・・・・・・・・っ、」



無理やり足を動かそうとしたところで、足元が真っ暗になる。ぷつん、と私の意識はそこで途絶えた。








不意に腹に感じた重み。そのせいで一気に浮上した意識。


目を開けると、目の前には涙を両眼いっぱいに溜めて俺の腹の上に跨るなまえがこちらを睨んでいた。



・・・・・・・・・何だ、この状況。


寝ぼけた頭の中に疑問符が並ぶ。



そんな俺なんてお構い無しに、なまえは俺の胸倉を掴んだ。



「っ、他に好きな子って誰?!」
「・・・・・・はァ?何の話してんの、お前」
「他に好きな子できたって言ってた!陣平が!何処の女だよ、それ!!」



マジで意味わかんねェ・・・・・。

欠伸を噛み殺しながら、上半身を起こし胸倉を掴んでいたなまえの手を解く。



「俺がいつそんなこと言ったんだよ」
「さっき!夢の中で他に好きな女できたからってフラれた!!!」
「・・・・・・・・・はぁ、」


自分で言ったその言葉に、我慢の限界だったのかなまえの両眼から涙が溢れた。盛大にため息をついた俺は、悪くねェ・・・・・・はずだ。


わしゃわしゃと前髪を乱し、ちらりと時計を盗み見ると4時を少し過ぎたところ。



・・・・・・明日休みでよかった・・・、なんてほっと安堵の息をつく。



「・・・・・・っ、別れないからね!私!!」
「別れるも何も夢だろ、それ」
「正夢かもしれないじゃん!予知夢とか!!!」


やっぱこいつ頭のネジ飛んでるよな。


ギャンギャンと喚くなまえの腕を引き、そのまま胸元へと引き寄せる。



「っ、」
「夢と現実ごちゃごちゃにすンな。あと勝手に人を浮気もんみたいにも言うな」
「・・・・・・だって、」
「お前が見たのは夢。現実の俺じゃねェ」
「・・・・・・他に好きな子は?」
「いねェよ。俺はお前で手一杯、他の女なんて興味ない」



「分かったか?」と耳元で尋ねると、少し落ち着いたのか、こくりと頷くなまえ。


あぁ、ねみぃ・・・・・。


きっとこんなバカみたいな理由で起こされるなんて、こいつじゃなかったらブチ切れてただろう。


それでも腕の中で色気もなく鼻を啜るこいつだから。



「ふぁ〜、分かったンならさっさと寝るぞ」
「・・・・・・ぎゅってしたまま寝て欲しい」
「ん、」


腹の上からおりたなまえを抱き寄せ、そのまま横になる。


胸元に擦り寄りながら俺を見上げるなまえと視線が交わる。

その瞳の奥には、薄らとまだ不安が見え隠れしていて。


・・・・・・ホント、めんどくさい奴。


「お前しか好きじゃねェよ。馬鹿みたいな夢見て泣く暇あるなら、いつもみたいに笑っとけ」
「・・・・・・っ、好き。大好き!!」
「へいへい。ほら、寝るぞ」



やっと戻った屈託のない笑み。それにつられて自然と俺の口元も弧を描く。


素直に笑ってて欲しい。そんなことを思いながら再び眠りの世界へと意識を手放した。




Fin


prev / next

[ back to top ]