▽ 1-2
約束の時間を過ぎても現れないなまえ。やっぱり俺が迎えに行けばよかったな、なんて思いながら電話をかけるとなまえはすぐにやって来た。
いつものバカみたいなハイテンションじゃなくて、どこか元気なさげなその表情。そして同じくらい気になったのは、今日のコイツの服装だった。
体のラインがはっきりと分かるニットワンピ。がっつりと開いた背中から覗く白い肌。申し訳程度にその肌はリボンで覆われているも、腰周りは丸見えで。
最近流行ってンのかは知らねェけど、自分の女が着るには許し難いそのデザイン。
それに加えて、コイツの容姿は人目を引く。
無駄にキラキラした目元、大きな瞳は俺の顔色を伺うみたいに不安げに揺れる。
その姿を不特定多数の男に見られるのが嫌だと思ってしまった。
部屋に入ってからもなまえはどこか元気がなくて。
膝を抱え蹲ったまま、流しっぱになっているテレビをぼーっと見つめてる。
「・・・・・・機嫌悪ぃの?」
「悪くないよ」
「じゃあなに不貞腐れてンだよ、さっきから」
ショッピングモールに行けなかったことで拗ねてんのか?なんて思ったけど、それも少し違うような気がして。
いつもは2人きりになれば、ウザいくらいに引っ付いてくるくせに今日は僅かに距離を開けて座るなまえ。
何だよ、マジで。
その距離に苛立った俺は、そのまま距離を詰めた。
「っ、」
「言ってくんなきゃ分かんねェんだけど、」
俯いていたなまえの顎を片手で上に向かせ、そのまま視線を合わせる。何度が左右に視線をさ迷わさたなまえは、口を開きかけてはやめるを繰り返す。
「ショッピングモール行かなかったこと怒ってンのか?」
「・・・・・・っ、違・・・」
「だったら何だよ、はっきり言えって」
やっぱり違うのか。他に思い当たることって何だ?
少しの沈黙の後、なまえの瞳にじんわりと涙の膜が張る。
「っ、はァ?!なんで泣くんだよ!」
「・・・・・・っ、松田が悪いもん・・・!!!」
ぷつん、と何かが切れたみたいにそう叫んだなまえは、ガキみたいにわんわんと泣き始める。
いや、マジでなんだよ、意味わかんねェ・・・。
思い当たる節なんかなくて。とりあえず落ち着かせようと、そのままなまえを抱き寄せた。
腕の中にすっぽりとおさまる小さな体からは、昔と変わらない甘い香りがした。その香りと柔らかい感触に、ぞくりと身体が熱を持つも小さく首を振りどうにか冷静さを保つ。
「何が泣くほど嫌だったワケ?」
ぎゅっと俺の腰に腕を回して、涙を流すなまえの頭をそっと撫でる。
なまえの怒りのポイントはイマイチ分からない。分からない、は違うな。分かりやすいっちゃ分かりやすい。
俺が他の女と話したら拗ねる。例えそれがコンビニの店員だとしても、嫌な顔をするもんだからまぁそれなりに面倒臭い。
同じ学部の女連中が、飲み会で俺に話しかけてきた時は「ブスのくせに松田に話しかけんな!」なんて、高校時代を思い出させるような毒を吐いたもんだから慌てて片手でその口を塞いだ。
まぁそんな感じでコイツが怒るのは基本的に女絡みだ。面倒臭いとは思うけど、突き放したり投げ出したりしたいとは思わない。そんな所も含めて好きだと、俺も思っているからだろう。
でもこんな風に泣くのは、付き合い始めてからは初めてのこと。
「・・・・・・ちはや、さん」
「千速?」
「・・・っ、楽しそうに話してた・・・!!やっぱりまだ好きなんでしょ・・・?!」
震える声でキッと俺を睨みながらそう言ったなまえ。
何だよ、そういうことか。
思わずふっと溢れた笑み。それを見たなまえは、涙でいっぱいの目を大きく見開きその眉間に皺を寄せた。
「っ、絶対別れないよ!私!今の彼女は私だもん!!!」
ホント、自信があるのかないのか。
そんななまえを可愛いと思うんだから、俺もいい加減重症らしい。
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