番外編 ゼラニウム | ナノ
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▽ 1-2


米花シティービルの映画館のエントランス。


不貞腐れた私は、ひとりで映画を見にやってきていた。


開場時間までまだ30分ほどあるので、エレベーター近くのソファに腰掛けぼーっと予告の流れるテレビを眺めていた。



陣平のバカ。アホ。間抜け。なんて思いつく限りの悪口を頭の中で並べてみるも、モヤモヤとしたこの気持ちは消えてくれそうにない。



・・・・・・せっかくの誕生日だったのに。


陣平の誕生日は、私にとって何より大切な日だから。


生まれてきてくれて・・・、出会ってくれてありがとうって、伝えるつもりだったのに。



「・・・・・・喧嘩なんかするつもりなかったのに」


ぽつりと呟いた独り言が寂しく響く。


その時、鞄に入れていた携帯が鳴っているのに気付く。


映画館に入る前にマナーモードにしていたせいで、鳴り続けていたそれに気付かなかった。



「・・・・・・げ、」

そこに表示されていたのは、陣平の名前。


朝のこともあったから無視しようかな、なんて一瞬考えたけれど鳴り止まないそれは私を急かす。



「・・・・・・もしも・・・『なまえ!お前今家か?』


私の言葉を遮り怒鳴るように声を荒らげる陣平に、思わず眉間に皺が寄る。



「映画見に行くって言ったじゃん。ひとりで!!」

ひとり≠嫌味っぽく強調してみたけれど、電話の向こうの陣平はそんなの気にもしていないようだった。



『どこの映画館にいんだよ!』
「米花シティービルだけど・・・」
『っ、』


いつもとは違う陣平の声。ただ怒っているわけじゃない。それに気付いた私の声が、徐々に怒気が削がれていく。



『今すぐ外に出ろ!!!!』


こんなに焦った陣平の声を聞くのは、初めてだった。



その瞬間、辺りに響く轟音。ガラガラと何かが激しく音を立てて崩れていく。黒煙に包まれ、何も見えなくなった。








「なまえ!!!おい!!!返事しろ!!!なまえ!!」


電話越しに聞こえた爆発音。


血の気が引くってのは、まさにこんな感じなんだろう。


何度叫んでも電話の向こうからなまえの声が聞こえることはない。


「・・・松田、とにかく現場に向かうぞ」
「っ、あぁ」


萩の言葉に、ゆっくりと電話を耳元から離しポケットに入れる。



あんなのが最後なんてありえねェだろ。


大丈夫だ。アイツは殺したって死なねェような女だ。


だから大丈夫。大丈夫。大丈夫。


米花シティービルに向かうまでの車の中で、震える手を必死に押さえながらそう自分に言い聞かせた。



現場に着くと、既に安全確認が下りていて崩れたビル内へと入っていく。


爆発現場は、映画館と同じフロアにあるゲームセンターの一角だった。



今のところ新たな爆弾は見つかっていないらしい。



「おい、萩。あっち見てくるから頼むぞ」
「あぁ。無茶すんなよ」


黒煙が残るフロア。萩に声をかけ映画館のある場所へと向かう。


警察官がこんな私利私欲で動くなんてあっていいはずがない。


頭でそう分かっていても、アイツのことが気になってしかたねェ。こんなんじゃ爆弾を見つけても、落ち着いてバラすなんて無理だ。



映画館に向かう道は、崩れた壁で塞がれていてレスキュー隊が瓦礫を退けようとしているところだった。



「状況は?」
「中の状況は分かりません!ただ瓦礫が邪魔してこれ以上進めず・・・、今掘削機を持ってきて、」
「っ、ンなの待ってられっかよ!」


どこか、どこか瓦礫の隙間はないのか。


人ひとり通れる場所があればそれでいい。



辺りを見回すと、僅かに瓦礫の隙間が空いている場所を見つけた。



「っ、」


その隙間をこじ開けるように、素手で瓦礫を退かす。


「よし、これなら・・・っ、」


どうにかその隙間から映画館の中へと入ると、そこは黒煙こそ残るものの大きな倒壊はなさそうだった。

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